シュクラ
ウシャナス · カーヴィヤ · バールガヴァ
アスラたちの師とされる聖仙にして、金星を司る神。死者を蘇らせる秘法を握り、神々の師ブリハスパティと拮抗する存在として語られる。
解説
概要
シュクラ(Śukra / शुक्र)は、アスラたちの師(アスラ・グル)とされる聖仙であり、同時に金星を司る神である。ウシャナス、カーヴィヤ、バールガヴァの名でも呼ばれる。名は「清らかな」「明るい」を意味し、漢字では戌羯羅と音写される。ナヴァグラハの一員として金曜日を司り、中国では西方の太白星と同一視された。死者を蘇らせる秘法ムリタサンジーヴァニーを握ることで知られ、神々の師ブリハスパティと力の釣り合った対をなす。
神話・物語
ヴェーダにおける姿は後代とかなり異なる。『リグ・ヴェーダ』でカーヴィヤ・ウシャナスとして数回言及される彼は、アスラの導師ではなく、傑出した洞察をもつ賢者(カヴィ)である。5.29.9、10.22.6、1.51.11、5.31.8などは、インドラがアスラのシュシュナを討つにあたって彼の助力を求めた場面を伝え、別の讃歌はインドラの武器ヴァジュラを彼が作り与えたとする。ゾロアスター教文献のカワ・ウサンに対応する人物とみる説もある。
彼をアスラ側に置くのはブラーフマナ文献である。『タイッティリーヤ・サンヒター』2.5.8.5は、アグニが神々の使者であるのに対しウシャナはアスラの使者であると述べる。『ジャイミニーヤ・ブラーフマナ』1.125–127はより詳しく、神々とアスラの戦いが決着しないのは、ブリハスパティとウシャナという同等の祭官が双方についているためであると説く。インドラは、勝敗は一方の祭官を寝返らせられるかにかかっていると悟り、贈物と栄誉でウシャナを迎え入れた。彼はアスラの弱点を記した秘法アウシャナサを神々に明かし、勝敗は決したという。
叙事詩とプラーナでは、ウシャナスが本名、カーヴィヤとバールガヴァが父系名、シュクラが後年に得た別名として整理される。聖仙ブリグの子(または孫)とされ、アスラの祭官という位置づけが固まっていく。ただし帰属は一定しない。『マハーバーラタ』は彼が自らを二つに分かち、一方が神々の、他方がアスラの知の源となったと述べ、『ヴィシュヌ・プラーナ』では双方に与する。アスラ専属の師として固定されるのは、後期プラーナに至ってからである。
シュクラの名の由来を語るのが、『マハーバーラタ』シャーンティ・パルヴァンの説話である。ヨーガの力でクベーラの体内に入り込み、その富と自由を奪った彼に対し、クベーラはシヴァに訴えた。怒ったシヴァが三叉戟を構えると、シュクラはその切先に身を移す。シヴァは戟を手で曲げて弓ピナーカとし、彼を呑み込んだ。体内に留まったシュクラは、シヴァの苦行が生む力を吸って強大になり、やがて讃歌を歌いながら出口を求めた。シヴァは精の通り道以外をすべて塞いでそこから出るよう命じる。こうして「明るい」と「精」の双方を意味するシュクラの名が与えられた。この筋には諸伝があり、『シヴァ・プラーナ』では、アンダカとの戦いでアスラ軍の蘇生を阻むためにシヴァが彼を呑み込んだとする。
『マハーバーラタ』第1巻のヤヤーティ説話では、ブリハスパティの長男カチャが蘇生の秘法を学ぶために弟子入りする。娘デーヴァヤーニーが絡むこの一段は、二人の師の対立を人間関係の側から描いたものである。
図像と象徴
5〜12世紀に九曜の人格的表現が整うなかで、金星は白い肌の若者として型が定まった。白馬に乗り、水瓶(カマンダル)を執る。この図像上のシュクラを聖仙シュクラーチャーリヤと同一の存在とみるかについては、研究者のあいだで見解が分かれる。仏教に受容された姿はさらに異なり、日本に伝わった図像では、頭上に酉の冠を戴き、白い練衣をまとって弦を弾く姿で表される。
系譜と関係
父は聖仙ブリグ、母はカーヴィヤマーターと呼ばれる。娘はデーヴァヤーニー。アスラ王ヴリシャパルヴァンやマハーバリに仕えたと伝えられる。ブリハスパティとは、アンギラス族とブリグ族という二つの祭官の家系の対立を背景に置いて理解されることが多い。「アスラ」と呼ばれた王国に仕えたブリグ族の祭司の記憶が、ヴェーダのウシャナス・カーヴィヤと習合して成立した人物とみる説もある。
文化的足跡
金曜日はシュクラの日とされ、南インドの九曜堂では白い衣と白い花を供える慣行がある。政治と統治の術を説く『シュクラ・ニーティ』は彼の名を冠して伝わるが、成立はかなり下る。仏教を介して東アジアにも伝わり、宿曜道の体系のなかで金星=太白星と結ばれた。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。