ティニア
ティン · ティンス · ティナ
エトルリアの天空を司る最高神。十一種の雷のうち三種を投げ分け、境界の保証人ともなった。ローマのユーピテルにあたる。
解説
概要
ティニア(エトルリア語 tinia、ティン、ティンスとも)は、エトルリア神話の天空神であり、その神々のなかで最高位に置かれる。ローマのユーピテル、ギリシアのゼウスにあたる。妻はウニ、娘はメンルヴァで、この三柱がのちにローマへ渡ってカピトーリーヌスの三神となった。
ただし最高神の座については異伝がある。ウァッローは、エトルリア人の至高の神はティンスではなくウェルタだと記した。両者が習合したと見る研究者もいるが、推測にとどまる。エトルリアの神々の序列は、ローマ側の証言をそのまま受け取ってよいとは限らない。
神話・物語
まとまった物語は伝わらない。エトルリアの銅鏡に刻まれた場面から、断片的にその位置が窺える。ヘルクレがウニの子として神々に迎え入れられる場面では、ティニアが「この図はヘルクレがウニの子となったさまを示す」と刻まれた板を指し示している。神々の集まりを主宰する者として描かれるのが、この神の常の役どころである。
雷をめぐる観念は、この神を語るうえで欠かせない。エトルリア人は雷を投げる力を持つ神を九柱数え、ローマ人はこれをノウェンシレースと呼んだ。雷には十一の種類があり、そのうち三種をティニアが投げ分けたと伝えられる。どの方角から来た雷が何を告げるかを読む技術がハルスペクスの職掌の一部であり、天空神の名はその体系の中心にあった。
図像と象徴
標識は雷である。エトルリアの図像では、その雷が赤あるいは血の色で描かれることがある。姿は髭をたくわえた壮年として表されることもあれば、髭のない若者として表されることもあり、ギリシアのゼウス像のように一定していない。
ミュンヘンの古代美術博物館が蔵する前300年から前250年ごろのテラコッタ像は、この神を表したものとされる。奉献の銘としては、アレッツォ出土の青銅のキマイラに刻まれた tinscvil——「ティンスへの贈り物」——が名高い。
系譜と関係
妻はウニ、娘はメンルヴァ。ほかにフフルンスとアプルをセムラとの子とする伝えがあり、ディオスクーロイに相当する双子カストゥルとプルトゥケは「ティンの子ら(tinas cliniiaras)」と呼ばれた。
境界の守り手という一面も知られる。セルヴァンス、おそらくはララン(軍神)と同じく、ティニアは土地の境を保証した。チュニジアで見つかった三基の境界石には同一の銘が刻まれ、そこに保証人としてこの神の名が現れる。エトルリア人の植民者が置いたものである。
ピアチェンツァの肝臓には、ティン・キレンス、ティン・トゥフ、ティンス・トネといった添え名らしき綴りが刻まれている。その意味については複数の案が出されたが、エトルリア語の理解が限られているため、定説はない。
文化的足跡
ティニア・ウニ・メンルヴァの三柱を町の高所に、三つの道と三つの門の突き当たりに祀るべしという規定は、ローマ人が「エトルリアの学」として受け継いだ都市計画の一部であった。ウィトルーウィウスはこの三神殿を町のもっとも高い場所に、互いに離して置くよう説いている。ローマのカピトーリウムの丘に立つ三神殿は、この作法の産物である。ローマ国家の中心にある神殿の構成が、征服された民の宗教規則に従っていたことになる。