モロス
モロス · ファートゥム · Moros
迫りくる破滅を擬人化した精霊で、ニュクスの子らの筆頭に挙げられる。人に自らの死を予見する力を与えるとも言われた。図像化されない最も抽象的な死の相であり、ローマではファートゥムと呼ばれた。
解説
概要
ギリシア神話において、モロス(Moros、「定業」の意)は、迫りくる破滅を擬人化した精霊であり、人間を死すべき運命へと駆り立てる。モロスは人に自らの死を予見する力を与えたとも言われた。ローマの対応者はファートゥムであった。
系譜
モロスは、夜の原初の女神ニュクスの子である。ローマの著者は、モロスをエレボスの子でもあると示唆する。
ヘーシオドス『神統記』のニュクスの子らの列挙において、モロスは最初に挙げられる。「まず憎むべきモロスを生み、次に黒いケールとタナトスを生んだ」。
死をめぐる複数の神格——モロス(定業)、ケール(暴力的な死)、タナトス(死そのもの)——が並置される。ギリシア人は死を複数の相に分けて理解した。
概念としてのモロス
ホメーロスにおいて、モロス(あるいはモイラ)は「割り当てられた分け前」を意味し、そこから「運命」「死」の意味に転じた。人はそれぞれ定められた分を持ち、それを超えることはできない。
モイライ(運命の三女神)も同じ語根であり、「分け前」を意味する。モロスは運命の観念の、より抽象的で非人格的な相である。
「モロスを超えて」(ヒュペル・モロン)という表現がホメーロスに現れる。神々でさえ、定められた運命を超えて事を成すことはできない。ただし人は運命に先んじて死ぬことがあり、この場合「モロスを超えて」死んだと言われる。運命が破られうるかどうかは、ホメーロスの詩における難問である。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
姿を持たない神格である。ケールが有翼の女として描かれ、タナトスが翼ある青年として描かれるのに対し、モロスは図像化されない。最も抽象的な死の相であるためとみられる。
関わる神格・伝承
母はニュクス。ケール、タナトス、モイライと死と運命の領域を共有する。ローマではファートゥム。
文化的足跡
「モロス」は今日のギリシア語でも「運命」「死」を意味する。ホメーロス以来の語が、日常語として残っている。