モロス
モロス · ファートゥム · Moros
避けられない死の定めを擬人化した存在で、ヘーシオドスではニュクスの子らの筆頭に挙がる。固有の物語も図像ももたず、ケールやタナトスと並んで死の様態の一つを名指す。
解説
概要
モロス(Μόρος / Moros)は、避けられない死の定めを擬人化した存在である。ヘーシオドス『神統記』では、ニュクスが夫なしに生んだ子のうち最初に名が挙げられる。固有の物語も図像ももたず、系譜の一覧のなかにだけ現れる。
神話・物語
『神統記』(211〜212行)は、「ニュクスは忌まわしいモロスと黒いケールとタナトスを生んだ」と語る。モロス(定め)、ケール(暴力的な死)、タナトス(死そのもの)が並べられ、死が一つではなく、その様態ごとに別の名をもって数えられている。
普通名詞としてのモロスは、ホメーロスでは「割り当てられた分」から転じて、人に定められた死や破滅を指す。同じ語根から、運命の女神たちモイライの名(モイラ、分け前)も生まれている。
ホメーロスには「定めを越えて」(ヒュペル・モロン)という言い回しがある。ゼウスは、人間が自らの愚かさによって、定められた以上の苦しみを招くと嘆く(『オデュッセイア』1巻)。神々の意図を越えて何かが起こりうるかどうかは、ホメーロスの詩に通底する問いの一つである。
アイスキュロスに帰される『縛られたプロメーテウス』では、プロメーテウスが人間から「定めの予見」を取り去ったと語る。自らの死期を知らないことが、人間が生きていける条件とされている。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
ケールが有翼の女として、タナトスが有翼の青年として壺絵に描かれたのに対し、モロスを表したと確認できる作例はない。
系譜と関係
母はニュクス。ローマの著者は父をエレボスとする。兄弟にケール、タナトス、ヒュプノス、モイライ、ネメシスなど。ローマでは運命を表すファートゥムがこれに近い位置を占める。
文化的足跡
英語などで「愚か者」を意味する moron は、別のギリシア語モーロス(愚かな)に由来し、この神名とは関係がない。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。