ケール
ケール · ケーレス · テネブラエ
疫病と破滅をもたらすニュクスの娘たちで、戦場で死者の血を吸う有翼の精霊。穏やかな死のタナトスに対し暴力的な死を表す。ゼウスが黄金の秤に二人の英雄のケールを載せて量る「魂の計量」の場面で知られる。
解説
概要
ケール(Κήρ / Ker、複数形ケーレス Κῆρες)は、暴力的な死、とりわけ戦場での死を擬人化した女の精霊である。ヘーシオドス『神統記』ではニュクスの子とされる。穏やかな死を表すタナトスに対し、血と殺戮に結びついた死の運命を表す。
神話・物語
ヘーシオドスは、ニュクスがまずモロス(定め)と黒いケールとタナトスを生んだと語り(211行)、さらに別の箇所で、罪を追い罰するケーレスを挙げる(217行)。
『イーリアス』では、ケールは英雄一人ひとりに定められた死の運命として語られる。アキレウスは、長く生きて名を失うか、若くして死んで名を残すか、二つのケールを負っていると言う(9巻)。第22巻ではゼウスが黄金の秤にアキレウスとヘクトールのケールを載せ、ヘクトールの側が冥界へ傾いた。
アキレウスの楯(18巻)には、戦いの場面の中にケールが描かれ、傷ついた者や死者を足をつかんで引きずり、その衣は人の血で赤く染まっている。ヘーシオドスの作とされる『ヘーラクレースの楯』では、黒い姿で白い歯をむき、倒れた者の血をすする姿で描かれる。
アテーナイのアンテステーリア祭の終わりには、「戸口から出ていけ、ケーレスよ」と唱えて死者の霊を家から送り出したと伝えられる。ここでのケーレスは、祭のあいだ家に戻ってきた死者の霊を指している。
図像と象徴
本サイトの主画像は、ロッシャー『ギリシア・ローマ神話事典』に収められた、魂の計量(ケーロスタシアー)の図である。ヘルメースが秤を持ち、両側の皿に小さな有翼の人影——二人の英雄のケール——が載る。
壺絵では、ケールは小さな有翼の人影として表されることが多く、死者の身体の上を舞う姿でも描かれる。魂(プシューケー)を表す有翼の小像と区別しにくい場合がある。
系譜と関係
母はニュクス(ローマの著者はエレボスとの子とする。キケローはテネブラエ〔闇〕の名を挙げる)。兄弟にモロス、タナトス、ヒュプノス、モイライ、ネメシスなど。
文化的足跡
「ケーロスタシアー」は、アイスキュロスの失われた悲劇『プシューコスタシアー』(魂の計量)の主題となり、アキレウスとメムノーンの運命を秤にかける場面が上演されたと伝えられる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。