ヨーガマーヤー
ヴィンディヤヴァーシニー · エーカーナンシャー · ヤショーダーの娘
ヴィシュヌの幻力が人格化された女神。クリシュナ誕生に際して胎を移し、自らヤショーダーの娘として生まれたとされる。
解説
概要
ヨーガマーヤー(Yogamāyā / योगमाया)は、ヴィシュヌの幻力(マーヤー)が人格化された女神である。名は「結びつける幻」を意味する。クリシュナの誕生に際して二つの働きを命じられた——デーヴァキーの胎に宿った第七子をローヒニーの胎へ移すことと、自らヤショーダーの娘として生まれることである。カンサの手をすり抜けて空へ舞い上がり、汝を殺す者はすでに生まれていると告げた女児が彼女にあたる。ヴィンディヤヴァーシニー(ヴィンディヤ山に住まう者)、エーカーナンシャーの名でも祀られる。とりわけヴィンディヤヴァーシニーはシャークタ派において独立した信仰をもち、ヴィンディヤ山中の聖地を中心に、ドゥルガーの一相として広く崇敬されてきた。
神話・物語
『バーガヴァタ・プラーナ』第十巻の冒頭で、ヴィシュヌは彼女に二つの命を下す。第一に、デーヴァキーの胎に宿ったシェーシャの分身をローヒニーの胎へ移すこと。引き移されて生まれたその子は、そのためにサンカルシャナ(引き寄せられた者)と呼ばれる。第二に、自らゴークラのナンダとヤショーダーのもとに娘として生まれること。デーヴァキーが第八子を産む同じ夜に彼女も生まれ、二人の子は入れ替えられた。
牢で取り上げられた女児を、カンサは岩に打ちつけようとした。だがその手をすり抜けて空へ舞い上がった彼女は、八臂の女神の姿を現し、武器を執り、天の楽人に讃えられながら、汝を殺す者はすでに他所で生まれていると告げて消えたと語られる。
彼女の役割は、隠すことと現すことの双方にある。子を入れ替えて真実を隠す一方、その正体を明かして予言を告げる。マーヤーという語が単なる欺きではなく、世界を成り立たせる働きを指すことが、この一段によって示される。ヴラジの人々がクリシュナを神と気づかずに愛し続けられたのも、彼女の力によるとされる。
図像と象徴
多臂の女神として、武器を執り空に立つ姿で表される。ドゥルガーと重ねて語られることが多く、造形の上でも区別しがたい。ヴィンディヤ山に住まうヴィンディヤヴァーシニーと同一視され、この名では独立した信仰をもつ。象徴となるのは、掴んだはずの手からすり抜けるという所作そのものである。
系譜と関係
ヴィシュヌの幻力の人格化であり、通常の系譜をもたない。生まれの上ではナンダとヤショーダーの娘とされる。ドゥルガー、カーリー、そしてバララーマの妹エーカーナンシャーと同一視されることがあり、境界は流動的である。クリシュナ誕生譚においては、バララーマの誕生とクリシュナの救出という二つの筋のいずれにも関与する唯一の存在である。
文化的足跡
デリー南部のメヘラウリーには、彼女を祀るヨーグマーヤー寺院がある。デリー最古の寺院の一つとされ、ジャンマーシュタミーには多くの参拝者を集める。ヴィンディヤ山中のヴィンディヤーチャルは、ヴィンディヤヴァーシニーの聖地としてシャークタ派の重要な巡礼地となっている。
幻力を司る女神が、神の誕生において不可欠の働きをするという設定は、ヴィシュヌ派とシャークタ派の接点をなす。クリシュナ信仰の中核をなす場面に女神が組み込まれていることは、両派の関係を考えるうえでしばしば注目されてきた。