ジャガンナート
ジャガンナータ · ジャガーノート · プルショーッタマ
オリッサのプリーで祀られる「世界の主」。手足をもたない木像として、兄バラバドラ・妹スバドラーと三体一組で安置される。
解説
概要
ジャガンナート(Jagannātha / जगन्नाथ)は「世界の主」を意味し、オリッサ(オディシャ)のプリーを中心に篤く信仰される神である。もとは同地の土着の神であったと考えられ、のちにヴィシュヌ派に取り込まれてクリシュナと同一視された。兄バラバドラ(バララーマ)、妹スバドラーとともに三体一組で祀られる。像はニームの木を粗く刻んだもので、手も足も首もなく、大きな円い目をもつ。石や金属で人体の均整を写す一般のヒンドゥー神像とは、造形の原理からして異なる。
神話・物語
『スカンダ・プラーナ』の「プルショーッタマ・クシェートラ・マーハートミヤ」が縁起を伝える。アヴァンティの王インドラデュムナは、青玉で造られた神像ニーラマーダヴァを祀りたいと願い、家臣ヴィディヤーパティを探索に遣わした。ヴィディヤーパティはサヴァラ族の長ヴィシュヴァヴァスに迎えられ、その娘ラリターと結ばれる。義父が毎夕どこかへ出かけては翌昼に戻ることを訝しんだ彼は、それが秘された神像への参拝であると知り、同行を願い出た。長は場所を知られぬよう目隠しを条件に許す。ヴィディヤーパティは芥子の種を道々に撒きながら洞窟へ至り、深い青の像を目にした。数か月後、芽吹いた芥子を辿って王の一行が向かうと、像は嵐に埋もれて見つからない。三日三晩の祈りののち、神は天から声を発し、企てを咎めるとともに自らの遍在を告げ、海を漂う木(ダール)として現れると告げたという。
聖仙ナーラダの助言で新たな社が建てられ、海に浮かんだ大樹が伐り出されて、ジャガンナート・バララーマ・スバドラーの三体が刻まれた。木を神格そのものとみなすダールブラフマー(聖なる木)の観念は、この縁起に根を持つ。
起源をめぐっては複数の説が並ぶ。『リグ・ヴェーダ』10.155.3にみえる海に漂う木を先蹤とみる読みは、サーヤナの注釈に由来するが、当該讃歌の文脈は別であるとして退ける研究者も多い。プリーがかつてダンタプラ(歯の都)と呼ばれ、社に仏歯を納めるという伝えがあること、山車の行列がマハーヤーナの行事と類似することなどから、仏教起源を説く議論も古くからある。いずれも決着はついておらず、土着の信仰・仏教・タントラ・ヴィシュヌ派の要素が層をなしていること自体が、この神格の特徴である。
図像と象徴
像は角ばった平らな頭部と、顔がそのまま胸へ溶け込む柱状の体からなる。首も耳も四肢もなく、瞼のない大きな円い目が二つ並ぶ。額にはヴィシュヌ派のU字形の標識が描かれる。三体は色と形で見分けられ、ジャガンナートは黒く平らな頭部と円い目、バラバドラは白く半円形の頭部とアーモンド形の目、スバドラーは黄色い。傍らにはヴィシュヌの輪宝スダルシャナが、円盤ではなく赤い木柱の姿で立てられる。
石や金属ではなく木で造られることが最大の特徴で、像は定期的に彫り替えられる。ヒンドゥー暦のアーシャーダ月が一年に二度めぐる年に、新しい像へ改める慣行がある。人体の比例を離れた抽象的な造形は、シヴァをリンガで表すのと同じく、姿をもたない存在を示す方法の一つとして理解されてきた。
系譜と関係
ヴィシュヌ派においてはクリシュナの地方形、あるいはヴィシュヌの化身とされる。一方でシヴァ派・シャークタ派の側は、女神ヴィマラーの配偶者バイラヴァ(シヴァの憤怒相)として捉え、プリーの祭司にはシャークタ派に属する者もいる。同じ像を異なる神学が引き受けている点に、この信仰の非宗派的な性格が現れている。オディア語圏の思想では、ジャガンナートは化身を生み出す側の根源(アヴァターリン)、プルショーッタマとして語られ、ダシャーヴァターラの系列には数えられない。
文化的足跡
6〜7月に行われるラト・ヤートラー(山車の行進)では、三体が巨大な山車に乗せられ、約3キロ離れたグンディチャー寺院へ渡って数日を過ごし、再び本殿へ帰る。14世紀初頭にプリーを訪れたフランシスコ会士オドリーコ・ダ・ポルデノーネはこの祭を記録に残しており、その報告が英語の juggernaut(止めがたい巨大な力)の語源となった。プリーの寺院はヒンドゥー教の四大聖地チャール・ダームの一つに数えられ、カリンガ様式の建築を代表する遺構でもある。大阪・吹田の国立民族学博物館には、山車の大型模型が展示されている。