カリオペー
カリオペ · カリオペイア · Kalliope
叙事詩を司るムーサ。九柱の首席とされ、詩人オルペウスの母にあたる。名は「美しい声」を意味する。
解説
概要
カリオペー(Καλλιόπη / Kalliopē)は、叙事詩を司るムーサである。名は「美しい声」を意味する。
ヘーシオドス『神統記』は彼女を「すべてのムーサのうち最も卓越した者」と呼び、九柱の筆頭に置く。理由も述べられている。彼女は王たちに付き従い、その舌に甘い露を置く。人々の争いを言葉によって収める力は、彼女から与えられるのだという。詩の女神が同時に統治の技術を支えるという理解が、ここに示されている。
神話・物語
叙事詩の女神として、彼女はオルペウスの母とされる。父はトラーキア王オイアグロス、あるいはアポローン。詩と音楽の力が神から人へ渡る経路が、この母子で系譜として示される。伝説的な楽人リノスの母とする伝えもあるが、リノスの母はテルプシコラーともウーラニアーともいわれ、定まらない。
裁定の逸話もある。美少年アドーニスをめぐってアプロディーテーとペルセポネーが争ったとき、ゼウスは彼女に裁定を委ねた。彼女は一年を分けて双方に等しく与えるという判断を下す。公平ではあったが、アプロディーテーはこれを恨み、のちにトラーキアの女たちを狂わせてオルペウスを殺させたのだという。裁いた母の判断が息子の死を招くという構成である。
図像と象徴
持物は蝋板と尖筆、あるいは巻物である。書く道具を持たされている点は、叙事詩が口誦から書物へ移った時代の反映といえる。
本ページの主画像は、後2世紀前半のローマの《ムーサの石棺》(ウィア・オスティエンシス出土、ルーヴル美術館 Ma475)に彫られた彼女で、巻物を手にする。九柱それぞれに持物を割り当てるこの一組の図像は、ヘレニズムからローマ期にかけての整理の産物であり、ルネサンス以降の寓意画がそのまま受け継いだ。
系譜と関係
父ゼウス、母ムネーモシュネー。姉妹はクレイオー、エウテルペー、タレイア、メルポメネー、テルプシコラー、エラトー、ポリュムニアー、ウーラニアーの八柱。子はオルペウス。
文化的足跡
一八世紀に発明された蒸気式の鍵盤楽器カリオペ(汽笛オルガン)は彼女の名を借りたもので、遊園地や外輪船で用いられた。「美しい声」の名が、遠くまで響く機械音の名として使われている。