メルポメネー
メルポメネ · メルポメーネー · Melpomene
悲劇を司るムーサ。名は「歌う女」を意味し、もとは歌一般の女神であった。セイレーンの母とする伝えもある。
解説
概要
メルポメネー(Μελπομένη / Melpomenē)は、悲劇を司るムーサである。名は「歌う女」を意味し、本来は歌一般の女神であったとみられる。悲劇という限定された分野を担うようになるのは、九柱に分野を割り当てる後代の整理による。
神話・物語
河神アケローオスとの間にセイレーンたちを生んだとする伝えがある。同じ系譜をテルプシコラーに帰す資料もあり、母がどちらかは定まらない。いずれにせよ、歌で人を惑わす怪物がムーサから生まれるという構成になっている点は共通する。セイレーンたちがのちにムーサと歌を競って敗れ、羽を毟られたという話と合わせると、母娘が争う筋にもなる。
そのほか固有の逸話はほとんどない。悲劇の女神としての彼女が語られるのは、神話のなかではなく、上演と受容の場面である。
図像と象徴
持物は悲劇の仮面と、悲劇役者が履いた厚底の靴コトゥルヌスである。棍棒や葡萄の冠を伴うこともある。
本ページの主画像は、ハドリアーヌス帝期(後117〜138年)の大理石像で、ティヴォリのカッシウス邸から出土しヴァチカン美術館が所蔵する。コトゥルヌスを履き、ヘーラクレースの仮面と笏を手にした姿である。仮面が特定の役の顔として彫られている点は、この図像が抽象的な寓意ではなく実際の上演を踏まえていることを示す。
系譜と関係
父ゼウス、母ムネーモシュネー。九柱の一。アケローオスとの子セイレーンたち(異伝あり)。
文化的足跡
悲劇の仮面を持つ彼女と喜劇の仮面を持つタレイアの対は、演劇の記号として定着した。フランス革命期以降の劇場建築は、正面にこの二柱の像を掲げるのを通例とし、パリのオデオン座やウィーンの劇場にその例が残る。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。