アケローオス
アケロオス · アケローイオス · アケロイオス
ギリシア最大の川を司る河神。牡牛の姿でヘーラクレースとデーイアネイラを賭けて格闘し、角をもぎ取られた。セイレーンや泉のニュンペーたちの父とされる。
解説
概要
アケローオス(Ἀχελῷος)は、ギリシア神話の河神である。ギリシア最大の川アケローオス川を司る。
ヘーシオドスによれば、ティーターンのオーケアノスとテーテュースの子である。セイレーンたち、複数のニュンペー、その他の子の父ともされる。
姿を変える力を持ち、牡牛の姿でヘーラクレースとデーイアネイラを賭けて格闘し、敗れた。
神話・物語
最もよく知られるのが、デーイアネイラをめぐる争いである。カリュドーン王オイネウスの娘に求婚したアケローオスは、同じく求婚したヘーラクレースと戦うことになった。
ソポクレース『トラーキースの女たち』でデーイアネイラはこう語る。求婚者は河神アケローオスであり、三つの姿で父に彼女を求めた——あるときは牡牛の姿で、あるときは輝く鱗の蛇となって、あるときは牛の顔をした人の姿で、その顎髭から泉のように水が流れた。オウィディウス『変身物語』では、アケローオス自身がこの戦いを語る。彼は蛇に変じ、次いで牡牛に変じたが、ヘーラクレースはその角の一本をもぎ取った。
もぎ取られた角の行方については複数の伝えがある。オウィディウスによれば、ナーイアスたちがこれを果実と花で満たして聖なるものとし、豊穣の女神がこれを持つようになった。アブンダンティアやフォルトゥーナの持つ豊穣の角(コルヌコピア)の起源をここに求める説である。ただし角の起源譚はほかにもあり、山羊アマルテイアの角とする伝えのほうが広く行われる。
アルゴスの英雄アルクマイオーンの物語にも関わる。母殺しの穢れを負って土地を追われたアルクマイオーンは、アケローオス川の河口に新しく積もった土地——彼が罪を犯したとき、まだ存在していなかった土地——に住むよう託宣を受ける。河神は彼を迎え入れ、娘カリロエーを妻として与えた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アッティカの大理石浮彫である(前320〜300年頃、メトロポリタン美術館蔵 25.78.59)。ヘルメースと三人のニュンペーとともに、アケローオスが表される。
図像の定型は、牛の角を生やした髭の男である。顔だけを正面向きに彫った仮面型の作例も多く、建物の軒先や器物の装飾として用いられた。水と角という組み合わせが、この神を他の河神から見分ける標になる。
ギリシアにおいて、河神は一般に牡牛の姿と結びつけられる。川の轟きが牛の唸りに、流れの荒々しさが牛の突進に重ねられたためと解される。アケローオスの三様の変身——牡牛、蛇、牛面の人——は、この観念を一柱のうちに集めた形といえる。
系譜と関係
父はオーケアノス、母はテーテュース。6世紀の神話記述者アクーシラーオスは、この神をオーケアノスの子である河神たちのうち「最も年長にして最も尊ばれる者」とした。セルウィウスは、出所の分からない伝えとして、アケローオスをガイアの子とする説を伝える。
子は多い。セイレーンたちの父とされ、母はムーサのテルプシコレーともメルポメネーとも、カリュドーンの王女ステロペーともいう。名高い泉のニュンペーたち——コリントスのペイレーネー、デルポイのカスタリアー、テーバイのディルケー——もこの神の娘とされる。プラトーンは「ニュンペーたち」をアケローオスの娘と呼んだ。あらゆる泉の父、少なくとも泉のニュンペーたちの父とする伝統があった可能性を示す。
文化的足跡
日本語圏では、豊穣の角の起源としてアマルテイアの山羊が広く知られる一方、この河神の角に由来するという伝えはあまり紹介されない。
ギリシアで最大の川を司る神が、最も年長の河神として遇され、泉のニュンペーたちの父とされる。水系そのものを一つの家系として組織するという発想が、この神格の系譜には現れている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。