スフィンクス
スピンクス
獅子の体に人面を持つ幻獣。ギリシアでは翼ある女怪としてテーバイで謎をかけ、解けぬ者を殺した。エジプトでは王を象る守護像で、ギザの大スフィンクスが名高い。
解説
概要
スフィンクス(希 Σφίγξ)は、獅子の胴に人間の頭部を組み合わせた複合の幻獣である。同じ名で呼ばれながら、ギリシアとエジプトでは姿も役割も大きく異なる。ギリシアのスフィンクスは翼をもつ女性の怪物で、テーバイに現れて謎をかけ、解けぬ者を喰らった。エジプトのそれは王の顔をもつ雄の獅子像で、聖域や墓を守る守護者である。両者は西アジアの有翼獅子像を介して図像的に連なるが、機能の上では別物として理解される。
登場する物語
ギリシアで最もよく知られるのは、テーバイの物語である。ヘーラー(異伝では軍神アレースやディオニュソス)が送り込んだスフィンクスは、都に近い岩山に陣取り、通行人に謎をかけた。プセウド・アポロドーロス『ビブリオテーケー』が伝える謎は「一つの声を持ちながら、四本足にも二本足にも三本足にもなるものは何か」というもので、答えは「人間」——幼児は四つ這い、成人は二本足、老人は杖をつく——であった。解けぬ者は次々に喰い殺されたが、オイディプスが正答すると、スフィンクスは岩から身を投げて死んだと伝えられる。
出自には異伝が多い。ヘシオドス『神統記』(326行)はオルトロスと「彼女」(キマイラともエキドナとも読める)の娘とし、アポロドーロスはテューポーンとエキドナの娘とする。いずれにせよ、ケルベロスやネメアーの獅子と兄妹に当たる、大地の底に連なる怪物の系譜である。
図像と象徴
ギリシアのスフィンクスは、女性の顔と胸、獅子の胴、鷲の翼、しばしば蛇の尾をもつ姿で表される。前6世紀以降の壺絵や墓標の彫刻に多く、死と結びついた不吉な存在として、また境界を守るものとして墓上に据えられた。キオス島は市の紋章にスフィンクスを用い、貨幣にも刻んでいる。
エジプトのスフィンクスは翼をもたず、王のネメス頭巾をかぶった雄の獅子として造られる。王権と太陽の力を体現する守護像であり、ギザの大スフィンクスは第4王朝カフラー王(前2500年頃)と結びつけられる、全長約73メートルの巨像である。牡羊頭のクリオスフィンクス、隼頭のヒエラコスフィンクスなど、頭部を変えた派生形もあった。エジプト人はこれを「生ける似姿」(シェセプ・アンク)と呼び、「スフィンクス」の名のほうがギリシア語に由来する。
関係する神格・退治した英雄
ギリシアのスフィンクスを退けたのはテーバイの王子オイディプスで、その勝利がやがて悲劇の発端となる。系譜の上ではテューポーンとエキドナの子とされ、多くの怪物と血を分ける。エジプトのスフィンクスは特定の神の眷属ではなく、王そのもの、あるいは地平線の守護神ハルマキス(ホルエムアクエト)として崇拝された。
文化的足跡
「スフィンクスの謎」は、難問や不可解な沈黙の代名詞として西洋の言葉に残った。ルネサンス以降の絵画や、モローやアングルら近代の画家は、テーバイのスフィンクスとオイディプスの対峙を繰り返し描いている。今日ではゲームや幻想文学にもしばしば登場するが、その造形は古代の図像に多くを負っている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。