ヘーラクレイダイ
ヘラクレイダイ · ヘーラクレースの後裔 · Heracleidae
ヘーラクレースの子孫。エウリュステウスに追われてペロポネーソスを去り、三世代にわたる神託の誤読ののち帰還して半島を三分した。ドーリス人の侵入の神話的表現とされる。
解説
概要
ヘーラクレイダイ(Ἡρακλεῖδαι、「ヘーラクレースの後裔」)は、ギリシア神話の英雄ヘーラクレースの子孫である。
字義どおりには神話時代のヘーラクレースの子孫とその末裔を称する歴史時代の諸王家全体を指すが、ギリシア神話では通常、嫡流であるデーイアネイラの子ら——とりわけ長男ヒュロス——の家系をいう。
神話・物語
ヘーラクレースの死後、子らはミュケーナイ王エウリュステウスから迫害を受け、ペロポネーソス半島を去った。以後、半島への帰還は、英雄の育ての父アムピトリュオーンがミュケーナイを追放されて以来の長い悲願となる。
まずアテーナイに庇護を求めた。エウリュステウスがこれを攻めたとき、アテーナイ人はテーセウスの子デーモポーンのもとで応戦し、ヘーラクレースの子ヒュロスがエウリュステウスを討った——あるいはイオラーオスが討ったともいう。エウリピデース『ヘーラクレイダイ』がこの局面を扱う。
ヒュロスはペロポネーソスへの帰還を試みたが、テゲアー王エケモスとの一騎打ちに敗れて死ぬ。神託の「第三の実り」を三年後と解したのが誤りであり、実は第三世代を意味していた。孫アリストマコスも再び神託を誤読して敗死する。
ついにアリストマコスの子ら——テーメノス、クレスポンテース、アリストデーモス——がペロポネーソスに帰還し、これを三分した。テーメノスがアルゴス、クレスポンテースがメッセーニア、アリストデーモスの双子の子ら(母はアルゲイアー)がスパルタを得る。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
ヘーラクレイダイの帰還は、ギリシア神話の世界で起きた最後の大事件である。トロイア戦争を挟んだ長期にわたって語られ、歴史時代にはドーリス人の侵入と結びつけられた。神話が歴史上の民族移動の説明として機能した例である。
神託の誤読が二度繰り返される構成も見逃せない。「第三の実り」を年と解するか世代と解するか——神託の解釈の難しさが、三世代にわたる遅延の理由になっている。
関わる神格・伝承
祖はヘーラクレースとデーイアネイラ。中心人物はヒュロス、アリストマコス、テーメノス、クレスポンテース、アリストデーモス。
スパルタの二王家、アルゴスとメッセーニアの王家が、いずれもこの帰還に起源を求めた。
文化的足跡
「ヘーラクレイダイの帰還」は、古代ギリシアの歴史記述において、神話時代と歴史時代の境界に置かれた。トゥーキュディデースはトロイア戦争の八十年後と記す。
日本語圏では、ドーリス人の南下という歴史的事件の神話的表現として、古代史の文脈で言及される。