ユウェンタース
ユウェンタス · ユウェントゥス · Iuventus
ローマの青春の女神。青年男子の守護神であり、成人して市民名簿に登録された若者が奉納を行った。カピトーリウム丘の祭祀に古い来歴をもつ。
解説
概要
ユウェンタース(Iuventas / Juventas)は、ローマの青春の女神である。ギリシアのヘーベーと同一視されるが、両者の重なりは領分の名においてであって、来歴は別である。ヘーベーが宴の酌人であり英雄の妃であるのに対し、ユウェンタースが守るのは iuventus、すなわち兵役に就く年齢に達した青年男子の層そのものであった。青春の美ではなく、共同体を支える年齢集団が信仰の対象である。
神話・物語
固有の物語はほとんど伝わらない。ローマの神々の多くがそうであるように、この女神を語るのは物語ではなく祭祀の記録である。
最も知られるのは、カピトーリウム丘の逸話である。ローマ最大の神殿であるカピトーリーヌスの三神の神殿を建てるにあたり、丘の上にあった諸神の祠は鳥占によって移転を求められた。このときユウェンタースと、境界標の神テルミヌスだけが立ち退きを承知しなかった。両神が去らなかったことは、ローマの版図が動かず、若者が絶えないという吉兆と解された。結果として、ユウェンタースの席はユーピテル神殿のミネルウァの祠室の入口に設けられ、テルミヌスは屋根に穴を残したまま神殿内に取り込まれた。新しい国家神殿が古い地霊を排除できなかったという事実が、そのまま神話として語り直されている。
成人の儀礼とも結びついていた。少年が成人のトガをまとって市民名簿に登録される際、ユウェンタースの祠に貨幣を奉じたと伝えられる。
図像と象徴
独立した図像の型は確立しなかった。ローマの貨幣に見えるユウェンタースは、多くの場合ヘーベーの図像――杯を持ち鷲に給する若い女性――を借りている。共和政末期以降のローマ美術がギリシアの型を吸収した結果であり、ユウェンタース固有の姿を復元することは難しい。本項では主画像を置いていない。
系譜と関係
ユーピテルとユーノーの娘とされる。ヘーベーとの同一視はインテルプレタティオ・ロマーナの一例だが、ヘーベーの母がヘーラーであるのに対し、ユーノーとの関係はローマ側の三神構成に引き寄せられて整えられたものと見るべきである。青年層の守護という機能では、インドのアリヤマンなど他の体系の若者神との比較が試みられることもあるが、これは機能の類似にとどまる。
文化的足跡
イタリアのサッカークラブ、ユヴェントスの名はこの語に由来する。ラテン語 iuventus がイタリア語で「青年」を意味し続けたためで、女神への言及というより語そのものの継承である。