ウラシュ
ウラス · Uraš · Urash
大地を神格化したメソポタミアの女神で、天空神アヌの妻として最もよく知られる。ニンイシナやアムルなど多くの神がアヌとの子とされた。ディルバトの農耕の男神ウラシュとは別の神である。
解説
概要
ウラシュ(Uraš)は、大地を神格化したメソポタミアの女神である。天空神アヌの妻として最もよく知られ、フランス・ヴィッゲルマンは彼女をアヌの妻のうちで最も広く認められた存在とする。名がシュメール語とアッカド語のどちらに由来するかは争われているが、いずれにせよ「大地」あるいは「耕地」の意に解されていた。アヌやナンムと並ぶ原初の神格として扱われることもある。
ディルバトで祀られた農耕の男神にも同じウラシュの名があり、どちらを指すのか決めがたい資料もある。アン=アヌム神名表は両者を別の箇所に置いており、本項は女神のウラシュを扱う。W・G・ランバートは、ニヌルタの名の後半もこの語の音の異形ではないかと考えた。
神話・物語
ウラシュを主人公とする物語は伝わらない。彼女の姿は、神々の系譜と宇宙の成り立ちをめぐる記述のなかに現れる。
アッカド期から古バビロニア期の文書で、彼女はとりわけ頻繁にアヌと組んで現れる。一方で、ウラシュをアヌの祖先の一柱とする伝えもある。ランバートが「アヌの神統記」と呼ぶ系譜では、ウラシュは男性の宇宙生成の大地神とされ、女性の対ニンウラシュと組んでいる。さらに、ウラシュをアヌ自身の別名として扱う文書まであり、これは uraš の語がまれに天を指したことと関わるとみられるが、詳しい経緯は分かっていない。
図像と象徴
彼女を表した作例は同定されていない。「AN IB」と書かれた箇所がウラシュ一柱を指すのか、アヌとウラシュの組を指すのか決められない例も多い。カッシート期の印章に刻まれる「AN URAŠ」の句も二柱の神名の組と解されるが、これをアヌとアントゥを表すものとみる提案もある。
アッシリアの写本などに見える神名表には「キ・ウラシュ」という二重の名が現れ、原初の存在としての大地を一語で表したものと考えられている。かつてこの名は「キブ」と誤読され、エジプトの大地神ゲブと結びつける説が出されたが、今では退けられている。
系譜と関係
アヌの妻として、彼女は「神々の女王」(ベーレト・イリー)と呼ばれることがあった。これはパンテオンでの地位を述べる形容で、ふつうこの名で呼ばれるニンフルサグと同一視したものではない。
アヌには、同じく大地を表すキも妻として組まれ、両者は混同されることもあったが、最終的には別の神である。天と地がまだ分かれていない一体の状態をアヌとキ、分かれたのちの姿をアヌとウラシュが表すとみる説や、ウラシュは大地全体ではなく耕される地表だけを表したとみる説がある。古バビロニア期の語彙表は、アヌのもう一人の妻アントゥとも彼女を等置している。
エンヘドゥアンナに帰される讃歌以来、多くの神がウラシュとアヌの子や孫とされた。医薬の女神ニンイシナとニンカラック、アムル、バウ、イシュタランがその例で、嵐の神イシュクル(アダド)の母を名指す唯一の資料も彼女を挙げる。ただし親の伝えが複数あって、彼女がそのうちの一つにすぎない神も多い。エンキは『イシュメ・ダガン讃歌E』でウラシュとアヌの子とされるが、ほかの資料では母はナンムである。ゲシュティンアンナも『シュルギ讃歌P』では二神の娘だが、ふつう母はドゥットゥルとされる。ニサバ、英雄ルガルバンダ、ニンスンにも彼女を親とする資料があるが、いずれも限られた証拠にとどまる。
文化的足跡
祭祀の記録は乏しい。ウル第三王朝期の文書には、アヌとウラシュの組への供物が少数見え、古バビロニア期の書簡にも名が現れる。ウェステンホルツは、ニップルに神殿をもった「ニップルのウラシュ」をこの女神の一形態とみている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。