アムル
マルトゥ · アムル · Amurru
アムル人(アモリ人)を神格化したメソポタミアの神で、草原と牧畜を司る。曲がった牧夫の杖を象徴とする。『マルトゥの結婚』は「生肉を食べ家を持たず埋葬されない」という定住民から見た遊牧民の像を伝える。
解説
概要
アムル(Amurru)は、シュメール語名マルトゥ(Martu)としても知られ、アムル人(アモリ人)の神的な擬人化を務めたメソポタミアの神である。
過去の研究ではしばしばアムルの神格として起源を持つと想定されたが、今日では一般に、メソポタミアの宗教における彼らの神的な定型として発展したと受け入れられている。それゆえ、その添え名と図像が示すとおり、草原と牧畜に結びつけられた。
当初これが唯一の役割であったが、次第に他の職能を発展させ、山の神、戦的な天候神、神的な悪魔祓い師として知られるようになった。
神話・物語
『マルトゥの結婚』と呼ばれるシュメール語の神話が知られる。
イニン・アブという都市で祭が営まれたとき、マルトゥは妻がないため肉の分け前を得られなかった。母に妻を求めると、母は「自らの好きな女を選べ」と答えた。マルトゥは競技で力を示し、都市の神ヌムシュダの娘アドガルキドゥを妻に望んだ。
娘の友人は反対して言う。「マルトゥは手で穴を掘り、生の肉を食べ、生涯家を持たず、死んでも埋葬されない。そんな者に嫁ぐのか」。しかし娘は「私はマルトゥと結婚する」と答えた。
この神話は、定住民から見た遊牧民の像を伝える。生肉を食べ、家を持たず、埋葬されない——都市の住民が草原の民をどう見ていたかが、そのまま記録されている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、礼拝者像である(ラルサ、ルーヴル美術館蔵 AO15704)。アムル人の神とされる。
曲がった杖(ガムルム)が、この神の象徴である。牧夫の杖であり、境界石に刻まれた。
外部の民族を神格化するという構造が、この神を規定する。メソポタミアの都市民が、周辺の遊牧民を一柱の神として万神殿に組み込んだ。その神は草原と牧畜を司り、都市の神々の一員となる。
関わる神格・伝承
妻はアシュラトゥム(ウガリットのアーシラトと同源)。アヌの子とされる。
アムル人は前二千年紀にメソポタミアに広く進出し、バビロン第一王朝(ハンムラビの王朝)を含む多くの王朝を建てた。神格化された遊牧民が、やがて支配者になった。
文化的足跡
『マルトゥの結婚』は、定住民の遊牧民観を伝える資料として、古代西アジア史においてしばしば引用される。