クレオーン
クレオン · クレオーン(テーバイ王) · Kreon
テーバイの摂政、のちに王。オイディプースの妻イオカステーの弟にあたる。ポリュネイケースの埋葬を禁じ、その禁令によって一族を失った。
解説
概要
クレオーン(Κρέων / Kreōn)は、メノイケウスの子で、テーバイ王妃イオカステーの弟である。三度にわたって摂政あるいは王としてテーバイの実権を握り、アンティゴネーへの処断によって妻子を失った。
名はそのまま「支配者」を意味する普通名詞である。ギリシア神話にはこの名の人物が複数おり、系図の空白を埋めるために後から挿入された者も少なくない。個人名というより称号に近い語であることは、この人物を読むときの前提になる。
神話・物語
姉の夫である王ラーイオスが何者かに殺されたのち、後継者がいなかったため、彼はイオカステーのもとで摂政として国政を担った。スピンクスが国を苦しめたときには、謎を解いた者に王妃と王位を与えると布告する。この布告に応じたのがオイディプースであった。
オイディプースの治世では宰相の位置にあった。しかしラーイオス殺害の下手人を追う王は、テイレシアースを呼び寄せた彼に野心を疑い、死刑を口にするまでになる。ソポクレース『オイディプース王』のこの場面で、彼は「王でなくとも王の権能だけは持てる、責めを負わずに済むのだから」と述べる。冠を欲しない者としての自己弁明であり、後の彼の行動と読み合わせると皮肉に響く。真相が露見すると彼は王を追放し、権力を握った。
ソポクレース『コローノスのオイディプース』では、彼の墓のある土地が守られるという予言を聞き、追放した相手を力ずくで連れ戻そうとしてアテーナイのテーセウスに阻まれる。
ポリュネイケースとエテオクレースの争いでは弟の側に立った。テーバイ攻めの七将の包囲のさなか、テイレシアースは、スパルトイの血を引く若者が犠牲になれば都市は救われると告げる。彼は息子メノイケウスを国外へ逃がそうとしたが、子は城壁から身を投げて死んだ(エウリピデス『フェニキアの女たち』)。都市を守るために子を失う場面が、埋葬をめぐる悲劇の前に置かれている。
兄弟の相討ちののち王位に就いた彼は、都市を守った弟を葬り、外国の軍を率いた兄の遺体は葬ることを禁じて、違反者を死刑とした。禁令を破ったアンティゴネーを生きたまま地下に閉じ込めると、婚約者であった息子ハイモーンが後を追って死に、妻エウリュディケーもまた自ら死ぬ。テイレシアースの警告を受けて彼が命令を撤回したときには、すべてが間に合わなかった。
アルゴス勢の埋葬も禁じたため、アドラーストスはアテーナイに助けを求める。エウリピデス『嘆願する女たち』では遺体の引き渡しに応じるが、後代の伝えではテーセウスに討たれたとされる。
図像と象徴
彼を名指しできる古代の作例は知られていない。この物語で図像になったのは、縛られたアンティゴネー、剣を抜くハイモーン、警告する予言者——いずれも命令を受ける側であり、命令を出す者は画面の外に置かれた。本ページに主画像を置いていないのはこのためである。
近代の受容では立場が逆転する。ジャン・アヌイの『アンティゴーヌ』は彼を主役に据え、秩序を保つために手を汚す統治者として描いた。原作でも彼は物語の後半で場を占め続けており、ソポクレース『アンティゴネー』の主人公は誰かという問いは、古くから論じられてきた。
系譜と関係
父メノイケウス、姉イオカステー。カドモスの娘アガウエーとスパルトイのエキーオーンの子であるペンテウス——ディオニューソスに引き裂かれたテーバイ王——の家系に属する。妻エウリュディケーとの子はハイモーンとメノイケウス。
ヘーラクレースの最初の妻メガラーを彼の娘とする伝えがあり、アムピトリュオーンの殺人の罪を清めたテーバイ王クレオーンも同一人物とされることが多い。ただし世代が合わないため、別人とみる整理もある。
同名の別人としてよく知られるのは、コリントス王クレオーンである。娘グラウケー(クレウーサとも)をメーデイアの夫イアーソーンに与えようとして、娘もろとも焼き殺された。
文化的足跡
彼の禁令は、成文法と不文の掟の対立を語る場面として、ヘーゲル以降の法哲学が繰り返し取り上げてきた。二〇世紀には、アヌイの戯曲が占領下のフランスで上演され、統治する側の論理を語る人物として観客に受け取られている。テーバイ物語のなかで、時代ごとに読み替えられ続けてきた人物である。