アンティゴネー
アンティゴネ · Antigone
オイディプースの娘。埋葬を禁じられた兄ポリュネイケースの遺体に土をかけ、生き埋めの刑を受けて自ら命を絶った。
解説
概要
アンティゴネー(Ἀντιγόνη / Antigonē)は、オイディプースとイオカステーの娘である。埋葬を禁じられた兄ポリュネイケースの遺体に土をかけ、それによって死ぬ。
彼女の行為は、国の法と、死者を葬るという古い義務との衝突として語られる。この一点によって、ギリシア神話の人物のなかでも近代以降の思想に最も多く引かれる人物になった。
神話・物語
父が出自を知って目を潰し追放されたとき、彼女は妹イスメーネーとともに付き添って諸国を放浪した。ソポクレース『コローノスのオイディプース』が描くのはこの時期であり、盲いた父の手を引く娘という像はここに由来する。
父の死後テーバイへ戻ると、兄弟エテオクレースとポリュネイケースは王位をめぐって相討ちとなっていた。摂政クレオーンは、都市を守った弟を手厚く葬り、外国の軍を率いた兄の遺体は葬ることを禁じ、違反者を死刑とする。
彼女は妹の制止を退けて城門を出て、市民の見ている前で兄の骸に土をかけた。捕らえられ、生きたまま地下の墓所に閉じ込められた彼女は、そこで自ら首を吊る。婚約者であったクレオーンの子ハイモーンは後を追って自刃し、その母もまた死ぬ。禁令を出した側の家が全滅する。
異伝もある。エウリピデスの散逸悲劇では、ハイモーンは命令に背いて彼女を田舎に匿い、二人のあいだにマイオーンが生まれる。成長した子が競技で正体を見破られ、死刑を宣告されるが、ディオニューソスの介入で赦される。前4世紀には、ポリュネイケースの妻アルゲイアーが彼女を助けて遺体をエテオクレースの葬火に投じたところ、炎が二つに分かれたという話も作られた。
図像と象徴
古代の作例は多くない。本ページの主画像は前4世紀後半のアプリア赤絵式アンフォラ(ダレイオスの絵師、ベルリン古代美術館 F3240)で、手を縛られ、槍を持つ番人に引かれていく彼女を描く。捕縛の場面が選ばれている点は、彼女の物語が行為そのものよりも、その後の処罰と対決にあることを示している。
南イタリアの壺絵は悲劇の上演と結びついて発達しており、この作例も舞台の場面を反映したものとみられる。ギリシア本土の陶画がこの主題をほとんど扱わなかったのと対照的である。
系譜と関係
父オイディプース、母イオカステー。兄弟姉妹はエテオクレース、ポリュネイケース、イスメーネー。婚約者はクレオーンの子ハイモーン。
なお、テューデウスに討たれるイスメーネーの逸話が古い図像に残っており、姉妹の物語には悲劇に採られなかった層がある。
文化的足跡
ソポクレース『アンティゴネー』は、ヘーゲルが『精神現象学』で人倫の対立の範例として論じて以来、法哲学と政治思想の議論のなかで参照され続けてきた。ジョージ・スタイナーは『アンティゴネーの変貌』でこの作品の受容史そのものを主題としている。
翻案も多い。ブレヒトはナチス期のドイツに舞台を移し、アヌイは占領下のフランスでクレオーンを主役に据えた戯曲を書いた。国家に抗う個人という読みが定着したのは近代以降であり、原作の対立軸が神々への義務と都市の法のあいだにあったことは、しばしば見失われる。