メーデイア
メデイア · メディア · メーデア
コルキス王の娘でヘカテーに仕える魔女。イアーソーンを助けて金羊毛を得させたが、のちに裏切られ、我が子を手にかけて竜の車で去った。
解説
概要
メーデイア(Μήδεια / Medea)は、コルキス王アイエーテースの娘で、ヘカテーに仕える魔女である。太陽神ヘーリオスの孫にあたり、キルケーの姪でもある。金羊毛を求めて来たイアーソーンに恋し、父を裏切って彼を助け、のちに裏切られて子を殺す。
ギリシア神話の女性のなかで、彼女ほど能動的に物語を動かす者は少ない。助ける側から復讐する側へ転じてもなお、行動の主体であり続ける。名は「策を巡らす者」に通じる。
神話・物語
アルゴナウタイがコルキスに着いたとき、アイエーテースはイアーソーンに難題を課した。火を吐く青銅の牡牛に軛をつけ、竜の歯を蒔き、生えてくる兵士を退けよ、というのである。メーデイアは薬を与えて彼の身体を不死身にし、兵士たちの倒し方を教えた。金羊毛を守る眠らぬ竜も、彼女の薬が眠らせる。
帰路も彼女の手が動く。追ってきた弟アプシュルトスを謀って殺し、クレータでは青銅の巨人タロースを倒した。イオールコスに着くと、イアーソーンの父の王位を奪ったペリアースを、若返りの術と偽って娘たちの手で殺させる。
コリントスに落ち着いたのち、イアーソーンは王女と結婚するため彼女を捨てる。エウリピデス『メーデイア』(前431年)は、この場面から始まる。彼女は花嫁に毒の衣と冠を送って焼き殺し、そのうえで自らの二人の子を手にかけ、祖父ヘリオスの送った竜の車で天へ去る。
子殺しがメーデイア自身の意志によるという筋は、エウリピデス以前には確かめられない。それ以前の伝えでは、子はコリントス人に殺されたとも、不死にしようとして誤って死なせたともいう。悲劇が神話を書き換えた例としてしばしば挙げられる。
図像と象徴
古代の作例は場面ごとに分かれる。ペリアース殺害を主題とするものが早く、前5世紀後半の浮彫(ベルリン古代博物館蔵、前420〜410年頃の原作の模刻)では、剣を手にする娘たちのあいだで、メーデイアが薬の箱を持って静かに立つ。手を下すのは彼女ではない。
竜の車で去る場面は、南イタリアの赤絵に多い。前4世紀のルカニア・アプリア陶器は、蛇の曳く車に乗って舞い上がる彼女と、地上に取り残されたイアーソーンを上下に配し、悲劇の終幕をそのまま画面にした。舞台の機械仕掛け(メーカネー)による退場が図像へ移されたと見られている。
タロース殺害の場面も三点の前400年頃のクラーテールに残る。いずれも彼女は薬の箱か鉢を手にして脇に立ち、自らは触れない。武器ではなく薬と言葉で働く者として、一貫して描かれている。
系譜と関係
父はコルキス王アイエーテース、母はオーケアノスの娘イデュイア。祖父はヘリオス、叔母はキルケー。太陽の血筋にありながら夜と冥界の女神ヘカテーに仕えるという二重性が、この人物の輪郭をなしている。
イアーソーンとの子は二人、あるいは複数と伝えられる。のちにアテナイでアイゲウスの妻となり、子メードスを生んだ。メーディア(メディア)人の名の由来をこの子に求める語源譚もある。
文化的足跡
エウリピデスの悲劇は上演当時こそ三位のうち最下位に終わったが、以後最も繰り返し上演される古典の一つとなった。セネカ、コルネイユ、グリルパルツァー、アヌイが翻案し、ケルビーニのオペラ《メデア》(1797年)はマリア・カラスの当たり役として20世紀に復活した。
近代以降、この人物は異邦の女、捨てられた妻、そして母という複数の主題の交点として読まれてきた。パゾリーニの映画《王女メディア》(1969年)はカラスを主演に迎え、ギリシア人にとっての外部としてのコルキスを主題化している。天文学では小惑星 (212) メデイアがその名を負う。