ブロック
ブロックル · ブロック · Brokkr
北欧神話のドヴェルグ。兄弟エイトリの鍛冶を鞴で支え、ミョルニルをはじめとする神々の宝を生んだ。虻に刺されて一瞬手を止めたため、槌の柄は短くなった。
解説
概要
ブロック(Brokkr、ブロックルとも)は、北欧神話に登場するドヴェルグ(ドワーフ)。兄弟のエイトリとともに、トールの槌ミョルニルをはじめとする神々の宝を鍛えた。名は金属の細片を意味する語に連なり、鍛冶を業とする者を指すと解されている。
伝えられている話は一つだけである。しかしその一つが、北欧神話の主要な持物のほとんどが揃う場面にあたる。
登場する物語
『詩語法』が語る経緯はこうである。ロキがシヴの髪を刈り落とし、償いのためにスヴァルトアールヴヘイムへ下って、イーヴァルディの息子たちに黄金の髪と船スキーズブラズニルと槍グングニルを作らせた。その出来に得意になったロキは、居合わせたブロックに、お前の兄弟にこれ以上のものは作れまいと言う。ブロックは受けて立つ。ロキは自分の首を賭けた。
エイトリが炉に材を投じ、ブロックが鞴を踏む。手を休めれば品が損なわれると兄弟は言い置いて出ていった。そこへ一匹の虻が飛んでくる——ロキが姿を変えたものと解されている。虻はブロックの手を刺した。ブロックは踏み続け、黄金の猪グリンブルスティができた。次に虻は首筋を刺した。踏み続け、腕輪ドラウプニルができた。三度目、虻は瞼を刺し、血が目に流れ込んだ。ブロックは思わず片手を離して血を払い、その一瞬のあいだに火が落ちた。こうしてミョルニルの柄は短くなった。
北欧神話で最も名高い武器の欠陥が、鞴を踏む手が一度止まったことに帰されている。しかも槌を作った当人ではなく、その助手の側の落ち度である。
判定に立ったのはオーディン、トール、フレイ。六つの宝のうち最も価値があるのはミョルニルだとされ、賭けはブロックの勝ちとなった。ところがロキは、首はやると言ったが頸はやると言っていない、と主張して逃れる。ブロックは代わりにその口を縫うことにし、自分の刃物では唇を貫けなかったため兄の錐を借り、ヴァルタリ(Vartari)という革紐で縫い合わせた。紐は後にロキ自身が引きちぎった。
図像と象徴
異教期の造形は伝わらない。この人物を絵にしたのは、19世紀末から20世紀初頭の挿絵本である。
本サイトが掲げるのは、アーサー・ラッカムが1901年に描いた一葉である。煙の立ちこめる鍛冶場に二人のドヴェルグがおり、一人は炉の火に長い柄で取りつき、もう一人は奥で鞴の綱を引いている。左上の窓からは小さな虻が入ってくる。ラッカムはこの虻を目立たせない。物語を知る者だけが窓辺の点に気づく仕掛けであり、原典が語る配置がそのまま図になっている。
エルマー・ボイド・スミスが1902年に描いた一葉は、砧の上で光る槌と、床に置かれた猪・船・槍・腕輪を同じ画面に並べた。六つの宝を一度に見せる構図であり、この物語が「持物の来歴をまとめて語る話」であることをよく示している。
ブロック自身に持物はない。鞴だけがこの人物の属性であり、図像でもほとんど必ず鞴とともに描かれる。神話における役割が「手を止めないこと」に尽きるからである。
関わる神格・伝承
兄弟はエイトリ(シンドリとも)。ドヴェルグの鍛冶としては、イーヴァルディの息子たちが対抗馬にあたる。
賭けの相手はロキ。この物語は、ロキが引き起こした損害を償おうとして、かえって神々に武器と宝をもたらすという型をとる。同じ型はアンドヴァリの黄金やスレイプニルの誕生にも見られる。北欧神話の重要な持物の多くが、ロキの不始末の後始末として世に出ている。
口を縫うという結末は、この物語が持つもう一つの主題を示す。ロキの武器は言葉であり、賭けもまた言葉から始まった。ドヴェルグが選んだ報復が、首でも財でもなく唇だったことには理屈が通っている。
文化的足跡
この兄弟の名は、中世以後の写本で揺れ続けた。日本語では『スノッリのエッダ』の訳を通じて「ブロックとエイトリ」の組で知られる。
現代の翻案では、ミョルニルの製作者としてしばしば言及される。ただし作中で名を与えられるのはたいてい兄のほうであり、鞴を踏んだ弟が省かれることも多い。原典に照らせば、柄が短いという槌の最大の特徴を決めたのはこの人物である。