グリンブルスティ
グッリンブルスティ · グリンブルスティ · スリーズルグタンニ
北欧神話でフレイの乗る黄金の猪。ドヴェルグの兄弟が鍛え、剛毛が闇を照らす。空も海も馬より速く駆ける。
解説
概要
グリンブルスティ(Gullinbursti)は、北欧神話においてフレイの乗る猪である。名は「黄金の剛毛」あるいは「黄金の鬣」を意味する。スリーズルグタンニ(「鋭い牙」「恐ろしい牙」)の名でも呼ばれる。
剛毛が光を放ち、どれほど暗い場所でも道を照らす。空も海も、どの馬よりも速く駆けるとされる。
登場する物語
制作の経緯を語るのは『詩語法』である。ロキがシヴの髪を刈り取った罰として、ドヴェルグの「イーヴァルディの息子たち」に黄金の髪、フレイの船スキーズブラズニル、オーディンの槍グングニルを作らせた。その帰り、ロキはドヴェルグのブロックに、その兄弟エイトリ(シンドリ)にはこれらに並ぶ品は作れまいと言い、自分の首を賭ける。
エイトリは炉に豚の皮を投げ入れ、ブロックが鞴を踏み続けた。そうして出来たのがこの猪である。同じ勝負で、オーディンの腕輪ドラウプニルとトールの鎚ミョルニルも鍛えられた。三品は神々の判定で勝ちを収め、ロキは首を賭けに負ける——ただし首と胴を分けずに首だけ取ることはできないと言い抜け、唇を縫い合わされるにとどまった。
用途を語るのはバルドルの葬送の場面である。スカルド詩『フースドラーパ』によれば、フレイはこの猪に乗って葬儀へ赴いた。ところがスノッリは『ギュルヴィたぶらかし』で、猪に車を曳かせて赴いたと記す。乗ったのか、曳かせたのか、二つの資料は一致しない。
図像と象徴
猪はフレイ信仰の聖獣である。イングランドのベンティ・グレンジ出土の兜は猪の像を頂に戴き、『ベーオウルフ』も猪を飾った兜を繰り返し歌う。豊穣神の獣が戦士の護符になっているのであり、この象徴は農耕と戦闘の双方にまたがっていた。
この猪を特徴づけるのは、光である。剛毛が闇を照らすという設定は、豊穣神の乗騎でありながら、太陽の運行を思わせる。黄金の毛を持つ獣が空を駆けるという形象については、日輪の擬獣化とみる解釈が19世紀以来行われてきた。ただし中世の資料はそう述べておらず、あくまで近代の読みである。
もう一つは、素材である。この猪は生き物ではなく、炉に投じられた豚の皮から鍛え出された細工物である。ドヴェルグの技が作るのは武具や装身具だけではなく、走る獣にも及ぶ。北欧神話における工匠は、生命に近いものまで製作の対象としている。
本サイトが掲げるのは、ルートヴィヒ・ピーチュが描き、1865年にルドルフ・ロイシュ『北欧の神々の物語』に発表された図である。異教期の造形として、この猪を名指しで表したものは知られていない。
関わる伝承
主はフレイ。同じ勝負で作られた品として、ドラウプニル、ミョルニル、そしてイーヴァルディの息子たちの手になるスキーズブラズニル、グングニル、シヴの黄金の髪がある。フレイにはブローズグホーヴィ(「血の蹄」)という馬を挙げる資料もある。
北欧の伝承には、もう一頭よく知られた猪がいる。フレイヤの乗るヒルディスヴィーニである。『ヒュンドラの歌』は、これが実は人間のオッタルの変じた姿だと語る。猪がヴァン神族の兄妹それぞれに配されているわけである。
古ノルド語の文献には、ユールの祭に猪(ソナルゴルト、「誓いの猪」)を引き出し、その上に手を置いて誓いを立てる習俗が記されている。中世以降のイングランドやスコットランドで祝祭に猪の頭を供する慣行が、これに連なるものかどうかは、しばしば論じられるが確証はない。
文化的足跡
グリンブルスティは、北欧神話の神々の持物のなかでも視覚的に印象の強いものとして、近代の挿絵に繰り返し描かれてきた。光を放つ黄金の獣という設定は絵になりやすく、フレイを描く際にほぼ必ず添えられる。
現代の幻想文学やゲーム作品にも、光る猪あるいは乗騎として登場する。原典において重要なのは、この獣が神の眷属ではなく、賭けの副産物として鍛えられた品だという点である。