フレイヤ
フレイア · フレーヤ
北欧神話でもっとも名高い女神。愛と美、豊穣と黄金、魔術セイズを司るヴァン神族の一員で、戦死者の半ばを迎える死の女神でもある。
解説
概要
フレイヤ(Freyja)は北欧神話の女神で、ヴァン神族に属する。名は古ノルド語で「女主人、淑女」を意味し、兄(または弟)フレイの名「主」と対をなす称号である。愛と性、豊穣、黄金、魔術セイズ、そして戦死者を領分とし、スノッリは『ギュルヴィたぶらかし』第24章で女神たちのなかで最も名高い者と記している。
神話・物語
ヴァン神族とアース神族が戦って和睦したとき、父ニョルズと兄フレイとともにアース神族のもとへ移った(アース神族とヴァン神族の戦い)。『ユングリング家のサガ』第4章は、ヴァン神族の慣わしであったセイズをアース神族に初めて教えたのがフレイヤだとする。
戦死者の半分を受け取る点で、この女神は死の領分にも深く関わる。『グリームニルの言葉』14節によれば、フレイヤの野フォールクヴァングでは、彼女が日ごとに戦死者の半分を選び、残る半分をオーディンがヴァルハラへ迎える。館はセスルームニルという。『エギルのサガ』では、息子を失った詩人エギルに娘ソルゲルズが、何も食べずにフレイヤのもとで食事をとる(死ぬ)つもりだと告げる場面があり、死者がこの女神のもとへ行くという観念をうかがわせる。
夫オーズはしばしば遠くへ旅に出て戻らず、フレイヤは赤い黄金の涙を流し、別の名を名乗りながら夫を探して諸国を巡る。そのためマルデル、ヘルン、ゲヴン、シュール、ヴァナディース(ヴァン神族のディース)など多くの名を持つ(『ギュルヴィたぶらかし』第35章)。
美しさゆえに巨人たちはこの女神を欲しがる。『スリュムの歌』では、トールの槌を盗んだ巨人スリュムが返還の条件にフレイヤを妻に求め、フレイヤが怒って鼻息を荒らげると館が揺れ、首飾りブリーシンガメンがはじけ飛ぶ。代わって花嫁に扮するのはトールである。アースガルズの城壁を築いた巨人も、報酬に太陽と月とフレイヤを求めた(同書第42章)。『ロキの口論』30〜32節では、ロキがフレイヤを、神々とアールヴのすべてと、さらには兄とも通じた女だと罵る。
図像と象徴
標章は首飾りブリーシンガメンである。これを四人のドヴェルグから一夜ずつ身を任せて手に入れたという話は、14世紀の『ソルリの話』に見える後代の伝えである。そのほか、身につければ鳥の姿で飛べる鷹の羽衣を持ち(『スリュムの歌』でロキが借りる)、二匹の猫が曳く車に乗り、猪ヒルディスヴィーニにもまたがる(『ヒュンドラの歌』)。スノッリは、バルドルの葬儀にフレイヤが猫の車で駆けつけたと記している(『ギュルヴィたぶらかし』第49章)。
古い図像で確実にフレイヤと言えるものはない。首飾りをつけた女性を象った小さな銀の垂飾がヴァイキング期の遺跡から出るが、フレイヤ像と断定はできない。12世紀のシュレースヴィヒ大聖堂の壁画には、大きな猫にまたがる女性と、糸巻き棒にまたがる女性が並んで描かれ、それぞれフレイヤとフリッグではないかとする説がある。本図はジョン・バウエルが1905年に描いたフレイヤで、猫を伴う姿は近代の画家たちが好んだ主題である。

系譜と関係
父はニョルズ、母はその名の伝わらない姉妹(『ユングリング家のサガ』第4章、『ロキの口論』36節)、兄はフレイ。夫はオーズで、娘にフノス(『ギュルヴィたぶらかし』)とゲルセミ(『ユングリング家のサガ』)がいる。『ニャールのサガ』の詩には「ヴァルフレイヤ(戦死者のフレイヤ)」の名が見え、ワルキューレとの結びつきが論じられてきた。
オーディンの妃フリッグとは、名がともにゲルマン祖語の *Frijjō に関わると見られること、ともに鷹の羽衣を持つこと、夫の名オーズがオーディンの名と同じ語根に立つことから、もとは一柱の女神だったとする説がある。ただし北欧の資料では両者は一貫して別の女神として語られ、決着していない。愛の女神という性格の横断的な比較は愛と美の神が受け持つ。
文化的足跡
ノルウェーのフレイホヴ(「フレイヤの神殿」)、スウェーデンのフレーヴィ(「フレイヤの聖所」)など、名を含む地名がスカンディナヴィアに分布し、実際に祀られていたことを示す。スウェーデン南部では植物の名にもフレイヤの名が残り、オリオン座の三つ星を「フレイヤの糸巻き棒」と呼ぶ地方もあった。19世紀にはニルス・ブロンメール《夫を探すフレイヤ》(1852年)など、夫を探して旅する姿が画題となった。ワーグナーの《ラインの黄金》に現れる女神フライアは、若さの林檎を守る点でイズンの役を併せ持つ近代の造形である。FGO・女神転生など現代の創作にもたびたび登場する。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。