ハヌマーン
ハヌマット · ハヌマン · アンジャネーヤ
ヒンドゥーの猿神。叙事詩『ラーマーヤナ』でラーマに仕え、大海を跳び越えてシーターを探し出した。風神ヴァーユの子とされ、超人的な怪力と主への一途な献身で知られる。
解説
概要
ヒンドゥー神話で崇拝される、猿の姿をした神。叙事詩『ラーマーヤナ』の主要人物であり、ヴィシュヌの化身(アヴァターラ)ラーマに仕える忠実な従者として描かれる。怪力・俊足・自在な変身の力をそなえ、なにより主への一途な献身(バクティ)を体現する存在として、今日もインド全域で篤く信仰される。武勇と守護をつかさどる軍神的な性格から、悪を退け力を授ける神として勧請され、力士たちの守り神でもある。
神話・物語
ハヌマーンはヴァナラ(人語を解する猿族)の英雄で、母は苦行者アンジャナー、父は風の神ヴァーユとされ、その来歴には多くの異伝がある。ヴァールミーキ系の伝承ではアンジャナーがヴァーユの加護によって身ごもったと語られ、後代のエークナート『バーヴァールタ・ラーマーヤナ』(16世紀)などは、シヴァの祭祀の場でヴァーユが神の力を運んだと伝える。ここからシヴァの(部分的な)化身と見なす立場も広く行われる。
『ラーマーヤナ』では、羅刹王ラーヴァナにさらわれたラーマの妃シーターを探すため、ハヌマーンは大海を一跳びに越えて楞伽(ランカー)島へ渡り、その居所を突き止める。敵に捕らえられて尾に火を放たれると、逆にその火で島を焼き払った。戦いで倒れたラーマの弟ラクシュマナを救うため、薬草の生い茂る山ごと運んできた挿話も名高い。ラーマへの忠誠を疑われた際には、みずから胸を裂いて心臓にラーマとシーターの姿が宿るのを示したと伝えられる。世界の終末を越えて生き続ける不死者(チランジーヴィン)の一人にも数えられる。
図像と象徴
猿の顔と隆々とした人型の身体をあわせもち、全身に朱(シンドゥーラ)を塗られた姿で表される。手には棍棒(ガダー)を握り、薬草の山を肩に担ぐ姿も多い。ラーマとシーターの前にひざまずき、合掌(アンジャリ)して仕える構図は、献身の理想像として繰り返し描かれてきた。尾を高く巻き上げた躍動的な姿や、五つの顔をそなえるパンチャムキ(五面)形など、力と守護を強調する図像も発達した。朱色は力と吉祥を、担いだ山は病を癒す治癒の力を象徴する。
系譜と関係
父を風神ヴァーユとする縁から、マールティ、パヴァナプトラ(風の子)、母アンジャナーにちなむアンジャネーヤなど、多くの別名をもつ。『マハーバーラタ』では、同じくヴァーユを父とする剛力の英雄ビーマの兄とされる。主君ラーマを介してヴィシュヌ信仰に連なる一方、シヴァの化身とする伝えもあり、両大神の信仰圏をまたいで崇敬される点に特色がある。
文化的足跡
16世紀の詩人トゥルシーダースが作した讃歌『ハヌマーン・チャーリーサー』は、今日もっとも広く唱えられる祈りのひとつである。レスラーの修練場(アカーラー)の守護神として身体の鍛錬と結びつき、東南アジアへの『ラーマーヤナ』受容とともに各地へ広まった。近年は映像作品やゲームにも題材として取り上げられている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。