ガトートカチャ
ハイディンビ · Gatotkaca
『マハーバーラタ』の武将で、パーンダヴァのビーマと羅刹女ヒディンビーの子。半羅刹の幻力で戦い、カルナに一度きりの神槍を使わせて散った。その死がアルジュナを救い、戦の帰趨を決した。
解説
概要
ガトートカチャは叙事詩マハーバーラタに登場する武将で、パーンダヴァ五兄弟の一人ビーマとラークシャサ(羅刹)の女ヒディンビーとのあいだに生まれた。母方の血ゆえに半ば羅刹であり、幻術・飛行・変身といった力を備える。名は「壺(ガタ)のように禿げた頭(ウトカチャ)」に由来する。恐ろしげな姿でありながら父とパーンダヴァに篤く忠実で、クルクシェートラの大戦で身を捨てて戦の流れを変えた英雄である。
神話・物語
パーンダヴァが森に隠れ住んだ折、ビーマは羅刹ヒディンバを倒し、その妹ヒディンビーと結ばれた。生まれたガトートカチャは羅刹の性ゆえに瞬く間に成人し、父が念じれば即座に馳せ参じると誓って森を去った。
クルクシェートラの戦いでは、一軍を率いてパーンダヴァ方に立った。羅刹は夜に力を増す。夜戦となった局面で、彼は幻術と巨躯をもって空からカウラヴァ軍を蹂躙し、軍は壊滅寸前に追い込まれた。窮したドゥルヨーダナは、宿将カルナに討伐を懇願する。カルナは、インドラから授かり宿敵アルジュナのために温存していた一度きりの神槍ヴァーサヴィ・シャクティを、やむなくガトートカチャに放った。槍を受けたガトートカチャは、死にぎわに体を山のごとく巨大化させて倒れ伏し、下敷きにして敵の大軍を圧殺した。
図像と象徴
ガトートカチャの図像は、その最期——カルナとの死闘——に集中する。戦車上のカルナと、それに対峙する巨大な戦士としてのガトートカチャを組み合わせた構図が、ラージャスターンなどの彫刻や細密画に見える。半羅刹の造形は一定せず、牙や大きな体躯で異形性を示す一方、武人としての威容を保つ。とりわけジャワやバリの影絵芝居ワヤンでは、鎧をまとい空を駆ける端正な騎士として造形され、インド本土の羅刹的な相貌とは大きく異なる姿で親しまれてきた。
系譜と関係
父はパーンダヴァの豪傑ビーマ、母は羅刹女ヒディンビーである。伯父にあたる羅刹ヒディンバはビーマに討たれており、彼の出自には羅刹と英雄の血が交わる。妻にアヒラーヴァティーを娶り、勇士バルバリーカを子に得たとも伝える。クリシュナは彼の力を高く評価し、その死に際して独り喜んだ——カルナが神槍を使い果たしたことで、宿敵アルジュナが難を逃れたからである。この一事が、ガトートカチャの死を単なる戦死ではなく、戦局を決した犠牲へと変えた。
文化的足跡
ガトートカチャは、羅刹の血を引きながら法(ダルマ)の側に殉じた者として、出自よりも行いを重んじる範例に数えられる。とりわけインドネシアでは絶大な人気を保ち、「鉄の骨・鋼の筋」をもつ空飛ぶ英雄ガトートカチャ(Gatotkaca)として、ワヤンや詩、彫像に繰り返し描かれてきた。バリのデンパサール空港前に立つ勇姿の群像はその一例である。現代でもゲームやアニメなどの創作に、飛翔する武人としてしばしば姿を見せる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。