スタソーマ
スタソーマ · 須陀素彌 · 普明王
ビーマとドラウパディーの子。マハーバーラタでは夜襲に殺される脇役だが、ジャータカでは釈迦の前世として約束を守る徳の体現者となり、日本には普明王の説話として伝わった。
解説
概要
スタソーマ(Sutasoma、須陀素彌、普明王)は、インドの叙事詩『マハーバーラタ』の人物である。
パーンダヴァのビーマとドラウパディーのあいだに生まれた子にあたる。父を異にする四人の兄弟——プラティヴィンディヤ、シュルタキールティ、シャタニーカ、シュルタセーナ——がいる。異母兄弟にガトートカチャがいる。
神話・物語
クルクシェートラの戦いでは、主に他の四兄弟とともに戦った。のち眠っているところをアシュヴァッターマンの夜襲にあい、他の四兄弟やドリシタデュムナ、シカンディンらとともに殺された。
仏教における受容
この人物が日本語圏で知られるのは、むしろ仏教を通じてである。
『ジャータカ』において、スタソーマはカウラヴァ王朝における釈迦の前世とされる。『ジャータカ・マーラー』の「スタソーマ・ジャータカ」には、次の話がある。
スタソーマは人喰いのスダーサの子に捕らえられ、連れて行かれた。しかしバラモンへの供養が完了していないことを悔み、必ず戻るから一時解放して供養しに行かせてほしいと懇願する。これが認められ、彼は約束を守って戻り、「真理を守った」のだと述べた。
『ジャータカ』におけるこの物語は、普明王の仏教説話として日本に渡来し、童話にもなっている。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
叙事詩における位置と、仏典における位置がまったく異なる点が、この人物の特徴である。『マハーバーラタ』では名と死だけを与えられた脇役であり、『ジャータカ』では約束を守る徳の体現者として主役を務める。
同じ名が二つの宗教文献に配され、別々の役を担う。インドの物語が宗派を越えて流通した痕跡といえる。
関わる神格・伝承
父はビーマ、母はドラウパディー。兄弟はウパパーンダヴァの四人。
なお、ジャワの古典文学『スタソーマ』(14世紀、ムプ・タントゥラル作)は、この物語を素材とする。インドネシアの国是「ビンネカ・トゥンガル・イカ」(多様性のなかの統一)は、この作品の一節に由来する。
文化的足跡
日本では「普明王」の名で説話が伝わり、人喰い王との約束を守る話として語られてきた。『今昔物語集』にも類話が収められている。
インドの叙事詩の脇役が、仏典を経て東アジアと東南アジアに伝わり、それぞれの地で別の意味を担った。物語の伝播を考えるうえで、これほど明瞭な例は多くない。