アメン
アモン · アムン · アンモン
エジプト神話の神。名は「隠れたる者」を意味する。テーバイの地方神から太陽神ラーと習合してアメン・ラーとなり、新王国期に「神々の王」と讃えられる国家最高神となった。
解説
概要
アメン(jmn、「隠れたる者」の意)は、エジプト神話の神。もとは上エジプトの都テーベの一地方神にすぎなかったが、中王国期以降にテーベの王家とともに台頭し、新王国期には太陽神ラーと習合してアメン・ラーとなり、「神々の王」と讃えられる国家最高神へと昇りつめた。目に見えぬ大気のように遍在しながら姿を隠す、という性格をその名に負う。
神話・物語
最古の言及は『ピラミッド・テキスト』にさかのぼり、そこでは配偶神アマウネトと対をなす原初の一柱として現れる。ヘルモポリスのオグドアド(八柱の原初神)の一員として、世界創造以前の「隠れたるもの・不可視の空気」を体現した。テーベ神学では、アメンはみずからを生んだ自己創成の神(カムテフ、「己が母の牡牛」)とされ、混沌から立ち上がって万物を生んだ創造神として語られた。新王国期にラーと結ばれると、隠れた本質(アメン)と目に見える太陽(ラー)という二面をあわせもつ普遍神となり、王の権威を保証する神として、これを祀る神官団の勢力も巨大化した。
図像と象徴
人の姿では、顎髭をたくわえ、頭上に二枚の高い羽根飾りをいただく冠をかぶり、背に長い紐を垂らす。片手に笏を、片手に生命の象徴アンク(円環十字)を握る。肌の色は初め赤褐色に塗られたが、アマルナ時代ののちは青く彩色されることが多くなった。青はナイルの肥沃な沃土と、大気・原初の創造を思わせる色である。渦を巻いた角をもつ牡羊もアメンの聖獣で、牡羊の頭をもつ姿や牡羊そのものとしても表された。豊穣神ミンと重ねられた際には、直立する男根をもつ姿(アメン・ミン)で生殖の力を示した。
系譜と関係
配偶神には異伝がある。原初的な文脈ではアマウネト(「隠れたる女」)と対をなし、テーベでは母神ムトを妻とし、月神コンスを子としてテーベ三柱神を構成した。エジプトの外では、ギリシア人がアメンを自らの主神ゼウスと同一視し(インテルプレタティオ・グラエカ)、リビア砂漠のシワにあった神託所は「ゼウス・アンモン」の聖所として知られた。歴史家ヘロドトスもこの同一視を書きとめている。角をそなえたアンモンの図像は、のちにアレクサンドロス大王の肖像にも受け継がれた。
文化的足跡
テーベのカルナック神殿とルクソール神殿はアメン信仰の一大拠点で、両者を結ぶオペト祭には神像が船で運ばれた。アメンの神官団の権勢はやがて王権をおびやかすほどとなり、これに抗したアクエンアテン(アメンホテプ4世)はアテン一神崇拝を掲げ、碑文からアメンの名を削らせた。王の死後に信仰は復興し、削られた名は再び刻み直された。角ある神の記憶は地中海世界に長く残り、「アンモン」の名は、その神殿の近くで採れた塩に由来するとされるアンモニアの語にもかすかな痕跡をとどめる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。