テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
ユミル
PLATE — YMIR
NORÐR · 北欧神話
YMIR

ユミル

イミル · ユミール · アウルゲルミル

ニコライ・アビルゴー画(1777年、デンマーク国立美術館 KMS3397) PUBLIC DOMAIN

北欧神話の原初の巨人。氷と炎のあいだに生じ、すべての巨人の祖となった。オーディンら三兄弟に殺され、その肉体から大地・海・空・山が造られたと伝えられる。

01

解説

概要

ユミル(Ymir)は、北欧神話の原初の存在。アウルゲルミル、ブリーミル、ブラインの名でも呼ばれる。すべてのヨトゥンの祖であり、その死体から世界が造られたと伝えられる。スノッリは、ユミルは神ではなく「彼も、その子孫もことごとく邪悪であった」と書き添えている。

名はゲルマン祖語 *Jumijaz に遡り、印欧祖語の *yem-「双子」と結びつけるのが有力な説である。同じ語根からはヴェーダのヤマ、イラン神話のイマが出ており、ローマ建国伝説のレムスの名もここに求められることがある。原初に一つの身体があり、それが分割されて世界になるという型は、印欧語圏に広く分布する。

登場する物語

生まれ方が二通り伝えられている。

『ヴァフスルーズニルの言葉』によれば、エーリヴァーガルと呼ばれる氷の川から滴った毒(eitr)が積み重なり、それが育って一体の巨人となった。草も生えない虚空ギンヌンガガプでのことである。眠るユミルの汗から、左右の腋の下に男と女が生じ、両足のあいだからは六つ頭の存在が生まれた。配偶者なしに増える身体である。

『ギュルヴィたぶらかし』は、これに別の枝を接いだ。北のニヴルヘイムの冷気と南のムスペルの熱がギンヌンガガプで出会って霜が融け、その滴がユミルの形をとる。同じ滴からは原初の牝牛アウズンブラも生じ、ユミルはその四条の乳を飲んで育った。牛のほうは塩気を帯びた霜の石を舐め、一日目に人の髪が、二日目に頭が、三日目に全身が現れる。こうして出てきた男がブーリで、その子ボル、ボルと女巨人ベストラの子がオーディン・ヴィリ・ヴェーの三兄弟であった。アウズンブラは『古エッダ』には現れず、スノッリだけが伝える。彼が失われた資料を持っていたのか、自ら整えたのかは決着していない。

三兄弟はユミルを殺した。傷口から流れ出た血は洪水となり、巨人族はベルゲルミルと妻を除いて溺れ死ぬ。二人は「ルーズル」——箱とも臼とも舟とも解される器——に乗って生き延び、巨人族はそこから増え直した。世界各地の洪水神話と同じ構図が、ここでは創世の副産物として起きている。

死体は世界になった。肉が大地に、血が海と湖に、骨が山に、歯と砕けた骨が岩と礫に、髪が樹木に、脳が雲に、頭蓋が天空になった。天を支えるため、四隅にはノルズリ・スズリ・アウストリ・ヴェストリ(北・南・東・西)という四体のドヴェルグが配された。睫毛は柵に転用され、人間の住む土地ミズガルズを囲った。世界は素材から造られたのではなく、遺体を解体して割り当てられたのである。

ドヴェルグの発生についても、伝承が割れている。『ギュルヴィたぶらかし』は、彼らがユミルの肉のなかに蛆として湧き、神々の決定によって知恵と人の形を与えられたとする。一方『巫女の予言』の王の写本本文は、彼らが大地から生じたと歌う。前者の説明はユミル=大地という等式を前提にしており、両者は矛盾するというより、同じことの言い換えとも読める。

図像と象徴

異教期の造形で、ユミルを描いたと確定できるものはない。世界の素材になった巨人という主題は、絵にしにくい。

代わりに、この存在は言葉のなかに濃く残った。スカルド詩は空を「ユミルの頭蓋」、大地を「ユミルの肉」、海を「ユミルの血」と呼ぶ。11世紀のアルノール・ヤルラスカルドは空を「ユミルの古き頭蓋」と詠んだ。空を指すケニングには「ドヴェルグの重荷」「ヴェストリとアウストリ、スズリ、ノルズリの兜」もある。四隅の小人が天を担いでいるという設定が、そのまま言い換えの語彙になっている。読者は毎回、空を見上げるたびに死体を思い出す仕掛けになっていた。

近代の造形は、18世紀末のデンマークから始まる。ニコライ・アビルゴーが1777年に描いた油彩は、牝牛アウズンブラの乳房に吸いつくユミルと、氷からブーリを舐め出す牛を一枚に収めた(デンマーク国立美術館蔵)。北欧神話を主題とする近代絵画のごく初期の例にあたる。19世紀にはローレンツ・フレーリクがユミル殺害の場面を描き、ドイツ語圏の挿絵本にも同じ主題が広がった。いずれも「巨大な裸体の老人」という古典古代由来の身体表現を用いており、北欧の造形伝統から来たものではない。

関わる神格・伝承

殺したのはオーディンとその兄弟ヴィリ・ヴェー。祖にあたるのはすべてのヨトゥン。ドヴェルグは、その肉から発生したとされる。原初の牝牛アウズンブラは、ユミルを養い、神々の祖ブーリを氷から掘り出した。

1世紀のタキトゥスは『ゲルマーニア』に、ゲルマン人が大地から生まれた原初の神トゥイストーを歌い、彼を自らの祖と考えていると記した。トゥイストーの名を「二重の者」と読み、ユミルの「双子」と重ねる説は古くからある。ただしトゥイストーをゲルマン祖語 *Tīwaz——つまりテュールの名——に結びつける説もあり、決着していない。

より広い比較としては、『リグ・ヴェーダ』第10巻の原人プルシャがしばしば引かれる。神々がプルシャを供犠として解体し、その口・腕・腿・足から四つの階層を、目から太陽を、心から月を生じさせたという歌である。原初の身体を分割して世界と社会を作るという型が印欧語圏に共有されていた可能性は高い。ただし北欧では、それは供犠ではなく殺害として語られる。プルシャが捧げられるのに対し、ユミルはただ殺される。

文化的足跡

19世紀のロマン主義は、この主題を「北方の創世記」として受け取った。ワーグナーは『ニーベルングの指環』でユミルを扱っていないが、原初の巨人と神々の対立という構図そのものは、この時代の北欧神話受容を通じて広く共有された。

「ユミル」の名は、今日では巨人の代名詞として創作に流用されている。原典で語られる姿は、しかし怪物というより素材に近い。北欧神話の世界は、はじめから誰かの死体の上に建っている——その設定の重さは、名前だけが引き継がれるときにたいてい落ちてしまう。

02

領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
ヤマ ヒンドゥー神話 同源
印欧語で「双子」を意味する語根に遡る同源とみる説(Yama/Yima/Ymir)。最初の存在の死が世界または死者の国を成り立たせる型を共有する。比較神話学上の再構であり、史的な同一視ではない。
ジャムシード ペルシア神話 同源
印欧祖語 *yem-「双子」に遡る同源とする説(N. エッティンガーほか)。イマのワラ伝承を洪水神話の変形とみる議論と結びつけて論じられるが、機能上の対応は限定的で、同源関係の主張は語源に基づく。
03

資料

Wikidata
Q214081 — 骨格データの出典
Commons
Ymir — 図像カテゴリ