北欧神話の炎の世界。ムスペル(Múspell)の名でも呼ばれる。『ギュルヴィたぶらかし』によれば、氷と霧のニヴルヘイムより先に存在し、燃え、輝き、そこの生まれでない者は立ち入れない。この熱と北の冷気が虚空ギンヌンガガプで出会って霜が融け、その滴から原初の巨人ユミルが生じた。
境界にはスルトが炎の剣を持って立ち、番をする。ラグナロクの日、「ムスペルの子ら」はスルトを先頭に空を裂いて現れ、渡った拍子に橋ビフレストを砕き、戦場ヴィーグリーズへ向かう。世界を焼き尽くすのはこの軍勢の炎である。
ムスペルという語は古ザクセン語『ヘーリアント』や古高ドイツ語の『ムスピリ』にも現れ、そこでは世界の終わりの火を指す。北欧に限られない古いゲルマン語圏の語彙であり、キリスト教の終末観との接触も指摘されている。