エンビルル
Enbilulu · エンビルル・エパドゥン · エンビルル・グガル
灌漑と運河・河川の水を司るメソポタミアの神。『エンリルとニンリル』ではエンリルとニンリルの子とされ、『エンキと世界の秩序』でティグリスとユーフラテスの世話を任される。のちマルドゥクの名の一つとなった。
解説
概要
エンビルル(Enbilulu)は、灌漑を司り、それに伴って運河と河川の水に結びつけられたメソポタミアの神である。「天と地の運河監督者」と呼ばれ、純粋に農耕の神と評されている。のちにはバビロンの主神マルドゥクの名の一つとして取り込まれた。
名の起源は分かっていない。bilulu の要素は、前3千年紀の神名表やザメ讃歌に見える女神ニンビルル、神話『イナンナとビルル』の女神ビルルの名にも含まれる。もとは一柱のビルルが男神エンビルルと女神ニンビルルに分かれたとする説、ニンビルルとエンビルルを同じ神とみる説があるが、W・G・ランバートは、ビルルの性格がエンビルルとそれほど似ていないとして、両者の同一視には慎重である。bilulu を嵐や雨雲の擬人化とみる説に対し、フランス・ヴィッゲルマンは藺草(いぐさ)を指す語と考える。
神話・物語
『エンリルとニンリル』では、エンリルとニンリルの子として生まれ、兄弟にはナンナ、ネルガル、ニンアズがいる。一方、ほかの資料ではエア(エンキ)の子とされる。
『エンキと世界の秩序』では、エンキがティグリスとユーフラテスの世話を彼に委ね、川を整えるのはエンビルルの役目となる。中バビロニア期に作られたとみられる呪文の一つは、ふつう月神シンに帰される日と週と月の秩序を定めた功を、例外的に彼に帰している。
『エヌマ・エリシュ』では、ティアマトを倒したマルドゥクに与えられる五十の名の一つとなる。ランバートは、もとは独立した神の名であった点で、アサルルヒやトゥトゥと並ぶ「主要な」名の一つとみた。叙事詩はこの名のもとで、水を配って牧草地と作物を保つ働きを語り、エンビルル・エパドゥンの名を灌漑の水路に、エンビルル・グガルとエンビルル・ヘガルを豊かさに結びつける。どのような経緯でマルドゥクに吸収されたのかは分かっていない。
図像と象徴
彼を表した図像は同定されていない。本サイトでは主画像を置かない。
系譜と関係
親は『エンリルとニンリル』ではエンリルとニンリル、別の伝えではエアとされ、エアの妻ダムガルヌンナの子にも数えられる。後代の神名表は彼を「運河のマルドゥク」と呼び、ある讃歌ではマルドゥクではなくナブーの名として現れる。ランバートは、農耕の神エンキムドゥと比べている。
文化的足跡
ダニエル・シュヴェーマーは、彼がもとエリドゥの神々に属したと考え、ランバートはバビロンと結びつく神とみた。バビロンのエサギラには、エンメシャラと共有する座「ドゥ・キ・シキル(清らかな場所の丘)」が設けられていた。前1千年紀後半の祓いの文書は、農耕の男神ウラシュ、エンヌギ、ニンギルスら農耕に関わる神々とともに、畑を守るよう彼に呼びかけている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。