ダムガルヌンナ
ダムキナ · Damkina · Damgalnuna
知恵の神エンキ(エア)の妻とされたメソポタミアの女神。アッカド語形ダムキナの名で『エヌマ・エリシュ』にマルドゥクの母として現れる。エリドゥとマルギウムで祀られ、浄めと取りなしに関わった。
解説
概要
ダムガルヌンナ(Damgalnuna)は、知恵と淡水の神エンキ(エア)の妻とされたメソポタミアの女神である。名は「王子の偉大なる妻」と訳され、この「王子」は暗にエンキを指す。名の表記に用いられる NUN の字はエンキの都エリドゥの表語でもあり、夫の都との結びつきを示すとみられる。のちにはダムキナの形が広まり、後代の資料にはダムキアンナの綴りも見える。フルリ語形はタプキナである。
夫との関係を離れた固有の性格ははっきりしない。夫と同じく浄めと祓いに結びつき、呪文では悪霊に対して呼びかけられた。祈る者のために夫へ取りなす女神ともされ、この役割はアダドの妻シャラ、シャマシュの妻アヤ、イナンナの従者ニンシュブルに通じる。
神話・物語
『エヌマ・エリシュ』では、ダムキナの名でマルドゥクの母として現れる。ただし叙事詩は彼女の出自を語らず、その誕生の場面もない。
彼女が中心に立つ作品は一つしか知られておらず、新アッシリア期と新バビロニア期以降の二つの写本で伝わる。そこではマルドゥクの率いるバビロンの神々と、エンリルの率いるニップルの神々が争い、敗れたニップル側との争いは、戦の知らせを受けたダムキアンナの介入によって決着する。W・G・ランバートは彼女が解き放ったものを「絆」と読んで作品に『ダムキナの絆』の題を与え、タカヨシ・オオシマは「重荷」と読んで、疫病か災害のようなものであった可能性を考える。オオシマはまた、このダムキアンナを同じ時代の祈りの例にならってザルパニトゥと解しており、女神の同定そのものが定まっていない。
マルギウムの王イピク・イシュタルの碑文には、災いの迫る町を救うようエアが妻に命じたとする一節があり、洪水神話への言及とみる研究者もいる。
図像と象徴
彼女の図像として確定した作例はない。エンキの随獣である魚人や山羊魚を伴う円筒印章の女神を彼女とみる提案があり、エンキと同じ場面に並ぶ例もあるとジュリア・アッシャー=グレーヴは指摘する。獅子が象徴獣であった可能性も論じられている。天文学では「天の車」の星座、すなわち小熊座と結びつけられた。
ヒッタイトの岩窟聖所ヤズルカヤの女神の行列には、タプキナとしてシャラシュとニッカルのあいだに刻まれている。本サイトでは、彼女の姿と確かめられる単独の作例がないため主画像を置かない。
系譜と関係
夫はエンキ(エア)。『エンキとニンフルサグ』ではニンフルサグと同じ女神として扱われるが、ディナ・カッツが指摘するように両者は通常別の神であり、ニンフルサグの夫はシュルパエであった。一部の事典に見える「シュメール時代にはエンリルの妻として現れる」という説明について、近年の研究が夫として挙げるのはエンキのみである。
エンキとのあいだの子には、ナンシェ、アサルルヒ、マルドゥク、エンビルルが数えられる。アン=アヌム神名表は彼女に多くの別名を与え、そのなかのニンティは『ニンカシ讃歌』でビールの女神ニンカシの母として現れる名とみられている。「知恵」と「耳」を意味するハシースとウズヌは、彼女の従者(スッカル)とされた。
文化的足跡
ザメ讃歌は彼女の祭祀の中心をエリドゥとし、もう一つの中心はエシュヌンナの南の都市マルギウムであった。ハンムラビ法典は彼女をマルギウムの神として挙げ、同市の王タキル・イリシュとイピク・イシュタルは、エアと彼女によって王位に就けられたと称した。シュルギはニップルに彼女の神殿を建て、古バビロニア期のシッパルの印章では、エンキとダムガルヌンナが最もよく呼びかけられる三組の神の夫婦の一つである。アッシュルナツィルパル2世の碑文は、カルフに夫婦の神殿があったことを伝える。
フルリの宗教にも取り込まれ、エアの妻の地位を保った。ヒッタイト王シュッピルリウマ1世とミタンニのシャッティワザの条約では、証人の神々の列に名を連ねている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。