ニンアズ
ニンアズ · Ninazu
「癒す主」を意味する冥界の神で、蛇と植物にも結びつく。ムシュフシュは本来この神の獣であった。エネギとエシュヌンナが祭祀の中心だったが、後者ではティシュパクに取って代わられた。ニンギシュジダの父。
解説
概要
ニンアズ(Ninazu、シュメール語で「癒す主」)は、メソポタミアの冥界の神である。蛇と植物にも結びつけられ、時とともに戦神の性格を獲得した。エレシュキガルとしばしば結びつけられ、その子、夫、あるいは単に同じ冥界の神格の類の一員とされた。
祭祀
もとの祭祀中心はエネギとエシュヌンナであったが、後者の都市では次第に類似の神ティシュパクに取って代わられた。その祭祀は古バビロニア期以後に衰退したが、エネギから導入された都市ウルでは一定の地位を保った。
エシュヌンナにおけるニンアズからティシュパクへの交替は、この地域にフルリ人あるいはエラム人の影響が及んだ結果とみられる。両者の図像と性格は似ていたため、交替が可能であった。
職能
名は「癒す主」を意味するが、冥界の神である。癒しと死が同じ神に配される理由は明らかでない。癒しの女神グラの系列とは別の、より古い層の観念とみられる。
蛇との結びつきは、その子ニンギシュジダにも受け継がれた。ムシュフシュとバシュムという二種の蛇形の怪物が、ニンアズの獣とされた。
神話・物語
『ニンアズの冥界への旅』と呼ばれる断片的な作品が知られる。
『エンリルとニンリル』の一部の版では、ニンアズはエンリルとニンリルの子として、冥界の神々の一柱に数えられる。ニンリルが冥界へ下る夫を追い、途中で三度身を隠した神と交わって三柱の冥界の神を産む——その一柱がニンアズである。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
ムシュフシュ——のちにマルドゥクの獣となる混成獣——が、本来はこの神の獣であった。神の交替とともに獣が受け継がれる過程の起点にニンアズがいる。
関わる神格・伝承
子はニンギシュジダ。妻はニンギリダ。エレシュキガルと結びつく。エシュヌンナでティシュパクに取って代わられた。
文化的足跡
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。ムシュフシュの元の主として、メソポタミア図像学の文脈で言及される。