ニッカル
ニッカル・ワ・イブ · Nikkal · Nikkal-wa-Ib
メソポタミアのニンガルに由来する月神の配偶女神。ウガリットではヤリフの妻。フルリ語のニッカル讃歌の粘土板には歌詞とともに楽譜が記されており、前1400年頃の、ほぼ完全な形で残る最古の記譜された楽曲である。
解説
概要
ニッカルは、シリアからアナトリアにかけて祀られた月神の配偶女神である。名はシュメールの月神ナンナの妻ニンガル(「偉大な女主」)に由来し、その西方の形にあたる。楔形文字では表語文字で書かれ、それぞれの土地の言葉で読まれた。どの月神の妻とされるかは土地によって異なり、ウガリットでは月の神ヤリフの妻とされた。フルリやヒッタイトの資料にもよく現れる。
神話・物語
ウガリットの詩『ヤリフとニッカルの婚姻』(KTU 1.24)は、ヤリフがニッカルの父ハルハビに求婚し、花嫁の代価を払って妻に迎える物語である。ウガリット語の詩ではニッカル・ワ・イブの名で呼ばれる。「イブ」の意味ははっきりせず、「果実」と解して果樹の女神とする説がある。
図像と象徴
主画像は、ヒッタイトの岩窟聖所ヤズルカヤ(前13世紀)の主室に刻まれた女神たちの行列の一部である。左から二番目の女神がニッカルとされ、エアの妻ダムキナと太陽神の妻アヤのあいだを歩む。ヤズルカヤの女神たちはフルリの神々の序列に従って並べられており、ニッカルもその一員として、ほかの女神たちと同じく高い冠をかぶり長い衣をまとった姿で表されている。固有の持物は知られていない。
系譜と関係
夫はヤリフ、父は「夏の王」「収穫の王」と呼ばれる月の神ハルハビである。ニンガルとは名の上でつながる同じ女神とみなされる。
文化的足跡
ウガリットの王宮からは、フルリ語の歌の粘土板が三十数点見つかっている。そのうちほぼ完全に残る一枚(h.6、前1400年頃)がニッカルへの讃歌で、歌詞の下に、九弦の竪琴サンムームで歌を伴奏するための指示が弦の名と数字で記されている。ほぼ完全な形で残る記譜された楽曲としては最古のもので、これより古い記譜は断片や調弦の指示にとどまる。1970年代のA・D・キルマーらの研究以来、何度も復元の演奏が試みられてきたが、記譜の読み方には諸説があり、研究者によって演奏は大きく異なる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。