ナンシェ
ナンシェ · ナジェ · Nanshe
ラガシュの女神で、社会正義・予言・漁・水鳥を司る。孤児と寡婦を守り、枡目や境界の不正を裁いた。グデア王の夢を解いてニンギルスの神殿建設を導いた。魚と水鳥を象徴とする湿地の女神。
解説
概要
ナンシェ(Nanshe)は、メソポタミア南部のラガシュ国家で重んじられた女神である。エンキの娘とされ、社会の公正、夢の解き明かし、魚と水鳥に結びつく。祭祀の中心は、湿地に近いラガシュ国家の町ニナ(ニギン、現在のスルグル)にあった神殿シラーラである。
神話・物語
シュメール語の『ナンシェ讃歌』は、この女神を孤児と寡婦の守り手として描く。ナンシェは孤児を知り、寡婦を知り、人が人を虐げることを知る者であり、弱い者のために訴えを聞く。讃歌によれば、年の初めにナンシェは、書記の女神ニサバとその夫ハイアを伴って人々の行いを調べ、秤や升をごまかした者、他人の土地の境を侵した者、約束を破った者を裁いた。神々の多くが王権や戦いを受け持つなかで、日々の暮らしの公正を担う女神として際立っている。
ナンシェは夢の解き手でもある。前22世紀のラガシュの支配者グデアの円筒碑文Aによれば、グデアは夢のなかで、巨大な姿の神と、星を描いた板をもつ女神などを見たが、その意味が分からなかった。グデアは舟でナンシェの神殿を訪ね、女神は、巨大な神は兄ニンギルスで、その神殿を建てよと命じているのだと夢を解き明かした。これを受けてグデアはエニンヌ神殿の造営に取りかかる。
図像と象徴
魚と水鳥がナンシェの象徴である。ナンシェに捧げられた文書には魚や水鳥の名が並び、湿地に生きる人々の漁の営みと女神の結びつきをうかがわせる。本サイトの主画像は、ウル第3王朝時代の土製の板に浮彫で表された女神像(ペンシルヴェニア大学博物館蔵)で、二羽の鵞鳥を従え、水と魚の流れ出る壺を手にしており、ナンシェと推定されている。
系譜と関係
父はエンキ。ニンギルスとはきょうだいの間柄とされる。配偶神はニンダラ、娘はニンマルキ。祭祀は主にラガシュ国家の範囲にとどまった。
文化的足跡
『ナンシェ讃歌』は、シュメール文学のなかで社会の公正の観念を具体的に伝える資料として、たびたび取り上げられている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。