ポダルゲー
ポダルケー · ポダルケース · Podarge
ハルピュイアの一人で「速き足」を意味する。西風ゼピュロスと交わり、アキレウスの神馬バリオスとクサントスを産んだ。ホメーロスは馬の姿の速い風として描く。
解説
概要
ポダルゲー(Ποδάργη、「速き足」)は、ギリシア神話のハルピュイアの一人である。速い風の人格化であり、西風ゼピュロスの配偶者とされる。
俊足で名高い二頭の神馬バリオスとクサントスの母である。二頭はアキレウスに贈られ、風のように速く走った。
神話・物語
『イーリアス』第16巻において、ホメーロスはこの存在を馬の姿をとったものとして描き、「オーケアノスの流れのほとりの牧場で草を食んでいた」と記す。そこへゼピュロスが吹き寄せ、交わって二頭の馬が生まれた。
一部の古典作家はゼピュロスの妻とみなす。しかし虹の女神イーリスもまたゼピュロスのもう一人の妻であり、ポダルゲーの姉妹でもあるため、両者のあいだに混同が生じている。
ステーシコロスは、神馬プロゲウスとハルパゴスもポダルゲーの子であるとする。
別名としてポダルケース、ポダルケー・アエロポス、ポダルケスが伝わる。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
この存在を規定するのは、風と馬の結びつきである。速い風が馬の姿をとり、風の神と交わって速い馬を産む。速さという性質が、風から馬へと系譜のなかで受け渡されている。ギリシアにおいて、名馬の血統を風に帰する発想はほかにも見られる。
ハルピュイアが「奪う者」を意味し、風の擬人化として始まった存在であることが、この結びつきの背景にある。後代のハルピュイアが醜い怪鳥として描かれるのに対し、ホメーロスの段階では速い風そのものである。
関わる神格・伝承
配偶者はゼピュロス、子はバリオスとクサントス。姉妹にイーリスとアエッロー、オーキュペテー。父はタウマース、母はエーレクトラーとされる。
バリオスとクサントスは、ペーレウスとテティスの婚礼に際してポセイドーンから贈られ、のちアキレウスの車を牽いた。クサントスは『イーリアス』第19巻で人語を発し、主の死を予言する。
文化的足跡
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。アキレウスの馬の母として言及される程度である。
しかしハルピュイアの本来の姿——怪鳥ではなく風——を伝える資料として、ホメーロスのこの一節は重要である。後代の図像がハルピュイアに与えた醜さは、この段階にはまだない。