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シーレーノス
PLATE — ΣΙΛΗΝΌΣ
HELLAS · ギリシア神話
ΣΙΛΗΝΌΣ

シーレーノス

シレノス · セイレーノス · シレーノイ

Marie-Lan Nguyen (2007) PUBLIC DOMAIN

ディオニューソスの養い親にして師とされる老いた半人半馬の精。つねに酔い、捕らえて問えば深い知恵を明かすとされた。

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解説

概要

シーレーノス(Σιληνός / Silenus)は、ディオニューソスの養い親であり師であるとされる老いた精である。セイレーノスの形でも伝わる。もとは複数形のシレーノイ(シレーニ)で呼ばれる森の精の一種で、サテュロスが山羊の特徴を持つのに対し、こちらは馬の耳・尾・脚を備えるとされた。ただし両語の用法は古代を通じて一貫せず、厳密な線を引くことはできない。

やがて複数形の意味が薄れ、シーレーノスといえばディオニューソスに付き従う一個の老人を指すようになる。禿げ上がった頭、突き出た腹、厚ぼったい唇と潰れた鼻。つねに酔っており、サテュロスたちに支えられるか驢馬に乗せられて運ばれる。ディオニューソスの一行のなかで最も年老い、最も酔い、そして最も賢いとされた。

登場する物語

この精を特徴づけるのは、酔いと知恵が矛盾しないという点である。酔ったシーレーノスは特別な知識と予言の力を持つとされ、うまく捕らえて問えば人間に大事なことを教えてくれると考えられていた。プリュギア王ミダースはこれを知り、シーレーノスが好んで飲む泉に葡萄酒を混ぜて眠らせ、家臣に捕らえさせたという。別の伝えでは、道に迷って彷徨っていたところを農夫たちに助けられ、ミダースのもとへ連れて行かれた。王が丁重にもてなすと、シーレーノスは物語を語って王を楽しませ、十日十夜の饗応ののちディオニューソスのもとへ返された。その礼として神がミダースに与えたのが、触れるものすべてを黄金に変える力である。

エウリーピデース『キュクロープス』では、シーレーノスとサテュロスたちはシケリアに漂着してキュクロープスの奴隷となっている。現存する唯一の完全なサテュロス劇であり、ホメーロス『オデュッセイア』第9歌の悲劇的な場面を喜劇に転じる役をこの一団が担う。ここでシーレーノスはサテュロスたちを「わが子ら」と呼ぶ。

プラトン『饗宴』では、酔ったアルキビアデースがソークラテースをシーレーノスに譬える。工房で売られているシーレーノス像——笛を持ち、二つに開くと内側から神々の像が現れる——のようだ、というのである。外見は滑稽で無知に見え、美しい若者にたやすく心を奪われるように見えるが、開いてみれば思慮に満ち、その言葉は神々しい。醜い外見の内に価値が隠されているという比喩は、ここからルネサンス以降の西欧に受け継がれた。

ローマでは罵倒の語としても使われた。前211年頃のプラウトゥス『ロープ』は、悪辣な女衒ラブラクスを「腹の出た老いぼれシーレーノス、禿頭、ずんぐり、太い眉、しかめ面の詐欺師」と呼ばせている。皇帝ユーリアーヌスの諷刺『饗宴』では、神々の傍らに座ったシーレーノスが歴代の統治者を評する役を与えられた。

図像と象徴

前6世紀のアッティカ黒絵式陶器から、馬の耳と尾を持つシレーノイの群れが盛んに描かれる。ディオニューソスの一行(ティアソス)の一員として、葡萄酒の器を運び、笛を吹き、マイナデスを追う。時代が下ると馬の特徴は薄れ、人間に近い脚を持つ肥満した老人の型が定着した。

演劇との関わりも図像に現れる。老いを強調した型はパッポシーレーノスと呼ばれ、サテュロス劇や喜劇の定型役として扱われる。壺絵では白髪に描かれ、突き出た腹、たるんだ胸、毛深い腿を持つ。前5世紀半ば頃から、体毛を模した房飾りのついた体衣を着けた姿で表されるようになり、これが役者の扮装であることは見る者に明らかだった。神話上の存在ではなく舞台上の人物として描かれている点で、他の幻獣とは扱いが異なる。

本項に掲げたのは、ルーヴル美術館蔵の《酔えるシーレーノス》(Ma 291)である。パロス産大理石による後2世紀のローマ期作品で、プラクシテレース作とされる《注ぐサテュロス》に着想を得たものとみられている。ローマ期にはディオニューソスの行列を刻んだ石棺の浮彫にも頻繁に現れ、密儀が約束した来世の希望を担う図柄の一部をなした。

なお、パウサニアース『ギリシア案内記』第6巻は、この精の墓が「ヘブライ人の地にある」と記している。旅行記の作者が伝聞として書き留めた奇談で、東方への関心が神話上の存在を実在の土地へ結びつけた例である。

関係する神格・退治した英雄

ディオニューソスの養い親にして師。オルペウス教の讃歌がこの役を明記する。半獣あるいは男根的な性格を持つ神の養育者という型には、プリアーポスヘルマプロディートス、ケダリオーン、ケイローン、そしてアテーナーの師とされたパラースが並ぶ。ローマの森の神シルウァーヌスと同一視されることがあるが、これは名の響きの近さによるところが大きく、シルウァーヌスの名は「森の」を意味するにすぎず、その出自はエトルリアのセルヴァンスに遡る。系譜的なつながりを示す根拠はない。

文化的足跡

「シーレーノスの知恵」と呼ばれる一節が、この精の名を哲学史に残した。ミダースに問い詰められた末に語ったとされる言葉——人にとって最も善いのは生まれてこないこと、次に善いのは早く死ぬこと——である。アリストテレスの失われた対話篇『エウデーモス』にあったものがプルータルコスに引用されて伝わり、ショーペンハウアーが取り上げ、ニーチェ『悲劇の誕生』がこれをギリシア悲劇の成立を説く鍵に据えた。

美術では、ルーベンス《酔えるシーレーノス》(1616年から1617年、アルテ・ピナコテーク)をはじめ、ファン・ダイクやリベーラが同じ主題を描いた。19世紀末のウィーンでは、グスタフ・クリムトがこの肥満した顔を「埋もれた本能の力」の意匠として繰り返し用いている。カール・リンネは、この名の女性形シレネー(Silene)をナデシコ科の属名に採った。

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領分・別名

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

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資料

Wikidata
Q464091 — 骨格データの出典
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