テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
ミダース
PLATE — ΜΊΔΑΣ
HELLAS · ギリシア神話
ΜΊΔΑΣ

ミダース

ミダス · ミーダース · Midas

British Museum CC BY-SA 4.0

プリュギアの王。触れたものすべてを黄金に変える力を得て破滅しかけ、のちに驢馬の耳を持つ王として語られた。

01

解説

概要

ミダース(Μίδας / Midas)は、ギリシア神話に語られるプリュギアの王である。触れたものすべてを黄金に変える力(「ミダースの手」)と、驢馬の耳を持つ王という二つの逸話で知られる。前者はシーレーノスをもてなした礼としてディオニューソスから与えられたものであり、後者はアポローンの怒りによるものである。神から得たものが災いとなり、神に逆らって身体を変えられる——同じ人物に、恵みと罰の二つの型が重ねられている。

神話・物語

ディオニューソスが養い親シーレーノスの行方を見失ったことがあった。葡萄酒に酔って彷徨っていたところを農夫たちに見つけられ、ミダースのもとへ運ばれたという。あるいは王の薔薇園で酔い潰れていたのを見つけたともいう。ミダースは相手が何者かを知って手厚くもてなし、十日十夜のあいだ礼を尽くして歓待した。シーレーノスは物語と歌で王と客たちを楽しませ、十一日目に神のもとへ返された。

ディオニューソスは望みの報いを選ぶよう言い、ミダースは触れるものが黄金に変わる力を願った。樫の小枝も石も金に変わり、王は狂喜して豪華な食事を命じた。だが食べ物は固くなり、飲み物は黄金の氷に変わる。飢えから逃れることを願って祈ると、神はパクトーロス川で身を洗えと告げた。ミダースが水に触れると力は川へ移り、以後この川の砂は金を含むようになった——リュディアの砂金の豊かさを説明する由来譚である。

富を憎んだミダースは田舎へ移り、牧神パーンの信者となった。パーンがアポローンに音楽を挑んだとき、山の神トモーロスはアポローンを勝者としたが、ミダースだけがこれに異を唱えた。怒った神はその耳を驢馬の耳に変える。王は帽子でこれを隠したが、髪を刈る理髪師だけは知ってしまい、秘密に耐えかねて地面に穴を掘って囁いた。そこに生えた葦が風に鳴るたび「王様の耳は驢馬の耳」と告げたという。

歴史上のミダースも存在する。前8世紀後半のプリュギア王で、前709年頃のアッシリア王サルゴン2世の同盟者一覧に見えるムシュキの王ミタと同一人物とみられている。ゴルディオン(現トルコのヤッスホユック)の大古墳から前8世紀初頭の王族墓が発掘され、鉄器時代の飲酒器の最良の一括として知られるが、キンメリア人の侵入との年代関係から、今日ではミダースより前の王の墓と考えられている。ミダス・シェヒルの岩窟遺構も、19世紀には「ミダース王の墓」とされたが、現在はキュベレーに捧げられた祭祀の場と解されている。神話の王と歴史の王を安易に重ねることの危うさを示す例である。

図像と象徴

古代の作例は、驢馬の耳を目印として同定できる。本項に掲げたのは、キウージ出土のアッティカ赤絵式スタムノス(前440年頃、大英博物館、「ミダースの絵師」に帰される)である。ミダースは折り畳み椅子に坐して笏を執り、頭に被った袋状の帽子から驢馬の長い耳が突き出ている。その前には、手を後ろ手に縛られた禿頭のシーレーノスが、髭を生やしたプリュギア人に引き立てられて立つ。捕らえられた精と、それを迎える王という場面が、銘に頼らず耳だけで読み取れるよう作られている。

黄金の逸話のほうは、古代美術ではほとんど描かれなかった。触れて金に変わるという出来事は静止画に置き換えにくく、絵にするなら食卓の場面を借りるほかない。この主題が視覚化されるのは近世以降である。

系譜と関係

神託によって王に選ばれた貧しい農夫ゴルディアースと、その妻とされる女神キュベレーの養子と伝えられる。子にリテュエルセース。シーレーノスとディオニューソス、そしてパーンとアポローンという二組の神々に挟まれた位置にあり、いずれの場合も人間の側の判断が試される役を負う。

文化的足跡

「王様の耳は驢馬の耳」の話型は、ヨーロッパから中東・東アジアまで広く分布する。日本では『今昔物語集』などに類話が見え、朝鮮の新羅の景文王の説話としても伝わる。ギリシアからの伝播とみる説と、独立に生じた話型とみる説があり、決着していない。「ミダースの手」の語は、英語をはじめ多くの言語で、何をやっても儲かる才覚を指す成句として用いられている。

02

領分・別名

03

資料

Wikidata
Q308398 — 骨格データの出典
Commons
Midas — 図像カテゴリ