テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
リアンノン
PLATE — RHIANNON
CELTAE · ケルト神話
RHIANNON

リアンノン

リアノン · フリアノン · ライエノン

T. Williams(木口木版)/『マビノギオン』シャーロット・ゲスト訳、1877年 PUBLIC DOMAIN

中世ウェールズ『マビノギ四枝』の女主人公。白馬に乗って現れ、自ら夫を選ぶ。子殺しの濡れ衣を着せられ、城門で旅人を背負う罰を負った。

01

解説

概要

リアンノン(Rhiannon)は、中世ウェールズの物語集マビノギオンに収められた『マビノギ四枝』の第一枝と第三枝に登場する女性である。第一枝ではダヴェド(ウェールズ南西部)の大公プイスを自ら選んで妻となり、第三枝では寡婦としてマナウィダンと再婚する。名はブリトン語の再建形 Rīgantonā に遡るとされ、rīgan-(女王)に由来する。ウェールズ語 rhiain(乙女)、古アイルランド語 rígain(女王)と同系で、「偉大な女王」ほどの意になる。物語のなかで彼女が神と呼ばれる箇所は一つもなく、宮廷の女性として一貫して描かれる。それでいて振る舞いには人ならぬところがあり、より古い女神に遡るという読みが19世紀以来くり返されてきた。

神話・物語

第一枝は、プイスが宮廷の近くにある塚ゴルセズ・アルベルスに登る場面から始まる。この塚に坐した者は不思議を見るか打撃を受けるかのいずれかだ、という言い伝えがあった。現れたのが、金の絹の錦をまとい輝く白馬に乗ったリアンノンである。プイスは二日にわたって最良の騎手たちを追わせるが、馬は並足より速く歩まないのに誰も追いつけない。三日目、プイス自身も追いつけず、ついに呼びかけると彼女は止まり、早くそう言えばよかったのにと応じる。婚約者グワウル・アプ・クルドではなくプイスを選んで来たのだ、と彼女は告げた。

婚礼の宴で、見知らぬ男が願いを乞い、プイスは中身を聞かずに承知する。男はグワウルであり、求めたのはリアンノンであった。彼女は軽率を責めたうえで策を授ける。一年後の宴で、プイスは乞食の姿で現れ、けっして満たされぬよう魔法をかけた小袋に食物を乞う。袋を踏んで中身を押し込もうとしたグワウルはそのまま閉じ込められ、外に伏せていた手勢が「袋のなかの穴熊」と称してこれを打った。命と引き換えに、グワウルはリアンノンと復讐の権利を放棄した。

結婚から三年目に男児が生まれる。しかしその夜、六人の侍女がまどろむあいだに子は消えた。罰を恐れた侍女たちは子犬を殺し、その血を眠るリアンノンの顔に塗って、母が我が子を食い殺したと訴える。貴族たちは離縁を勧めたがプイスは退け、代わりに贖罪を課した。リアンノンは毎日、城門の乗馬台のかたわらに坐して来る者に身の上を語り、望む者を背に負って城内へ運ばねばならない——もっとも、実際に背に乗ろうとする者はほとんどいなかった。

一方、グウェント・イス・コイドの領主テイルノンの牝馬は、毎年五月前夜に仔を産むが、その仔がいつも消えていた。牝馬を家に入れて見張っていると、仔馬が生まれた瞬間、窓から巨大な爪が伸びてこれを掴もうとする。剣で打ち払い、外へ出ると化け物は消え、戸口に男児が残されていた。夫妻はこれを我が子として育て、髪が黄金のように黄色いことからグリ・ワルト・エウリン(黄金の髪のグリ)と名づける。子は常ならぬ速さで育ち、馬に並外れた縁を示した。かつてプイスに仕えたテイルノンは、この子と父の似姿に気づき、義によってダヴェドの王家へ返す。母のもとに戻った子は、リアンノンが最初に発した言葉——これで私の pryderi(心労)は解けた——にちなんでプリデリと名づけられた。母の第一声から名を採るのが、この物語の作法である。

第三枝では、プイスの死後にダヴェドを継いだプリデリが、アイルランド遠征から生還した七人の一人マナウィダンを迎え、寡婦の母との婚姻を取り持つ。四人が再びゴルセズ・アルベルスに坐すと、雷鳴とともに霧が降り、ダヴェドから人も家畜も消え失せた。のちに白い猪を追って塔に入ったプリデリは黄金の鉢に触れて動けなくなり、救おうとしたリアンノンも同じ運命に遭って、塔ごと霧のなかに消える。マナウィダンは孕んだ鼠をめぐる粘り強い交渉の末、魔法をかけた張本人——グワウルの友である魔術師スィウィド・アプ・キル・コエド——に土地と家族の解放を認めさせた。すべては、袋のなかでグワウルが受けた辱めへの復讐だったのである。

図像と象徴

古代の図像はなく、中世の写本にも挿絵はない。この人物の姿は、物語の記述と19世紀以降の挿絵によって作られてきた。

物語が与える象徴は明確である。輝く白馬、金の絹の錦、追う者から決して離れない並足の逆説、そして満たされることのない小袋。物語はこれらを hud(魔法・幻術)と呼ぶ。贖罪の場面で彼女は乗馬台に坐し、旅人を背に負うと申し出る。運ぶ役を女が担うことで、語り手は彼女と馬とを静かに重ね合わせている。

「リアンノンの鳥」(Adar Rhiannon)は第二枝、ブリテンの三題詩、『キルッフオルウェン』に現れる。死者を目覚めさせ、生ける者を眠らせる鳥とされ、後者では巨人イスバザデンが娘の婚資として要求する。遠くにありながらすぐ近くに聞こえるという歌の逆説は、彼女自身の逆説と対をなす。

主画像はシャーロット・ゲスト訳『マビノギオン』(1877年)の木口木版で、白馬に横乗りして塚の前を行く姿を描く。エポナの騎乗像と構図がよく似るのは、19世紀の画家がすでにこの連想のもとに描いたためでもある。アラン・リーが1982年と2001年の英訳に添えた挿絵は、現代のリアンノン像を広く決定づけた。いずれもケルト復興以降の造形である。

系譜と関係

父はヒヴァイズ・ヘン。夫はプイス、のちマナウィダン。子はプリデリ。

ガリアの馬の女神エポナの伝統を継ぐとする説は、マビノギ研究とケルト学で広く受け入れられている。白馬、母と仔の重ね合わせ、静かに騎乗する姿がその根拠である。ただし宗教史家ロナルド・ハットンは懐疑的で、名の *Rīgantonā は「偉大な女王」であって馬を含まない。両者を同一視した史料は存在せず、系統の証明でもない。

プロインシャス・マク・カナは、リアンノンが土地そのものを体現し、夫を選ぶことで正統な王を定める主権女神の相をもつと論じた。ミランダ・グリーンはこれに加えて、無実の妻が我が子殺しの罪を着せられる国際的な民話の型を指摘する。パトリック・フォードは第三枝を、海の神が馬の女神と結ばれる神話の残骸と読む。一方ロバータ・ヴァレンテは、こうした女神説が「人としてのリアンノン」を覆い隠すと批判した。

中世の写字生が古い神々を巨人・英雄・聖人に置き換えた例(エウヘメリズム)はケルト語圏に広い。アイルランドの『クアルンゲの牛捕り』でマッハモリガンが女神と明言されぬまま人並み外れた者として現れるのと、事情はよく似ている。

文化的足跡

名は14世紀のウェールズ詩にも現れる。近代の普及はゲスト訳によるところが大きく、エヴァンジェリン・ウォルトンの『リアンノンの歌』(1972年)のように第三枝を語り直す小説も生まれた。フリートウッド・マックの「リアノン」(1975年)は、スティーヴィー・ニックスがメアリ・リーダーの小説を読んで着想したもので、そこに描かれるリアンノンは中世の原典とほとんど関係がない。

ウェールズの歳末の習俗マリ・ルイド——馬の頭骨を掲げて家々を回る——に、この伝統の残存を見る説もある。分布がリアンノン伝承のそれと重なる点が根拠とされる。

02

領分・別名

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

RHIANNON
リアンノン
ケルト神話
Pwyll Pendefig Dyfed
配偶者
収載データなし
RHIANNON
リアンノン
ケルト神話
Pwyll Pendefig Dyfed
配偶者
収載データなし
フル系図ページを開く →
04

資料

Wikidata
Q1543810 — 骨格データの出典
Commons
Rhiannon — 図像カテゴリ