マナウィダン
マナウィザン · マナウイダン · マナウィダン・アプ・スィール
ウェールズ『マビノギオン』第三枝の主人公。スィールの子でブラーンの弟にあたり、荒廃したダヴェドの地で忍耐と機知によって呪いを解いた。
解説
概要
マナウィダン(Manawydan fab Llŷr、「スィールの子マナウィダン」)は、中世ウェールズの物語集『マビノギオン』の第三枝の主人公である。ブリテンの正統な王でありながら王位を求めず、手仕事と忍耐によって難局を切り抜ける人物として描かれる。
アイルランドのマナナン・マクリルとは名が同源であり、父の名スィール(Llŷr)もアイルランドのリル(Lir)に対応する。ただし物語の内容は大きく異なる。マナナンが海と異界を領分とする神であるのに対し、マナウィダンには海神としての相がほとんど見られない。名の系統上の対応と、神格の内容の一致とは別の事柄である——両者はその区別を示す好例といえる。
神話・物語
第三枝は第二枝『スィールの娘ブランウェン』の直接の続きである。アイルランド遠征で兄ベンディゲイドヴラン(ブラーン)を失ったマナウィダンは、その首をロンドンの白い丘に、外敵の侵入を防ぐ向きに埋めるという遺志を果たす。
その後、友プリデリとともにダヴェドへ赴き、プリデリの母リアンノンを妻に迎えた。プリデリは簒奪者カスワッサンに臣従するためケントへ向かう。まもなく魔法の霧が国を覆い、四人——マナウィダン、リアンノン、プリデリ、その妻キグヴァ——を残して人も家畜も消え失せた。
四人はイングランドへ渡り、手仕事で身を立てる。鞍作り、盾作り、靴作り——どの町でも技量が抜きん出ていたために同業者の恨みを買い、そのたびに立ち去らねばならなかった。ダヴェドへ戻った彼らは、狩りのさなかに白い猪を追って見知らぬ砦にたどり着く。マナウィダンの制止を振り切って入ったプリデリは、金の鉢に触れて手足を吸い寄せられ、声を失う。彼を案じて入ったリアンノンも同じ目に遭い、砦は霧とともに消えた。
残された二人は再びイングランドへ渡り、やはり靴作りの腕ゆえに追われて戻る。マナウィダンは三度小麦を蒔いた。最初の畑は収穫の前夜に食い荒らされ、次の畑も同じだった。三つ目の畑を見張った彼は、群がる鼠の一匹——身重で逃げ遅れた一匹——を捕らえ、翌日これを吊るすと決める。
学者、僧、司教が順に現れて助命を乞い、財を差し出すが、彼は退けた。何を望むかと問われて彼が求めたのは、プリデリとリアンノンの解放、そしてダヴェドにかけられた呪いの解除である。司教は承知した。鼠は彼の妻であり、鼠の群れは彼の廷臣だった。すべては、かつてプイスとリアンノンに辱められた友グワウル・アプ・クルドの報復として、魔術師スィウィド・アプ・キル・コエドが仕掛けたものだったのである。呪いは解け、国は元に戻った。
図像と象徴
古代・中世を通じて図像は伝わらない。本サイトも主画像を掲げない。
物語の側で彼を特徴づけるのは、力ではなく手と忍耐である。彼は一度も剣を抜かない。三つの町を追われても争わず、妻と友を奪われても魔術で応じず、荒れ地に三度小麦を蒔き、最後は一匹の鼠を吊るす手続きによって国を取り戻す。相手が差し出す財貨をことごとく退け、要求を交渉の場に据えて譲らない態度は、中世ウェールズの法慣習を背景に読まれてきた。四枝のなかで彼だけが、超自然の力を持たぬまま超自然に勝つ人物である。
系譜と関係
父はスィール、兄はベンディゲイドヴラン(ブラーン)、姉はブランウェン。妻はプイスの未亡人リアンノン、その子プリデリとは義理の父子であり同時に無二の友である。
アイルランドの伝承では、マナナン・マクリルの兄弟としてブロンの名が挙がる。ウェールズでマナウィダンの兄がブラーンであることと対応しており、名の系統がある程度まとまって伝わったことを示す。ただし物語の内容が並行するわけではない。
文化的足跡
ウィル・パーカーは、第三枝が『デーシ族の追放』——中世初期に南西ウェールズへ渡ったアイルランドの部族の物語——と、アイルランドのサガ『マグ・ムクラマの戦い』に多くを負うとみて、これを「ダヴェドのカンブロ・ゲール系王家の建国神話」と評した。アイルランドとウェールズの伝承が実際に往き来した経路を示す議論である。
物語は『ヘルゲストの赤本』と『リゼルフの白本』に伝わる。19世紀にシャーロット・ゲスト夫人が英訳した『マビノギオン』を通じて広く知られるようになり、以後のファンタジー文学に素材を提供し続けている。