キルッフ
キルフッフ · クルッフ · Culhwch
ウェールズの物語『キルッフとオルウェン』の主人公。アーサーの従弟で、継母の呪いによって巨人の娘オルウェン以外と結婚できなくなった。
解説
概要
キルッフ(ウェールズ語 Culhwch、キルフッフとも)は、ウェールズの伝説『キルッフとオルウェン』の主人公である。
キリズ(ケリドンの子)とゴレイジズの子で、アーサーの従弟にあたる。この物語は、シャーロット・ゲスト夫人がマビノギオンに付した中世ウェールズ物語のうち、最も古いものである。
登場する物語
名の由来を、物語自身がこう説く——キル(cul、「狭い」)とフッフ(hwch、「牝豚」)から「豚小屋」を意味する、と。母ゴレイジズが豚の群れに驚いて錯乱し、豚小屋で産んだためだという。ただしこれは民間語源とみられる。豚飼いが豚小屋でキルッフを見つけ、父キリズのもとへ連れ帰った。物語は彼を「よき血筋の」と描く。
父キリズは、難産ののち妻ゴレイジズを失う。再婚したとき、若いキルッフは継母が新しい義姉と縁組させようとするのを拒んだ。気を悪くした新しい妃は、巨人イスバザデンの娘オルウェン以外の誰とも結婚できないという呪いをかける。
見たこともないのに、キルッフはオルウェンに恋い焦がれた。父は、名高い従兄アーサーの助けなしには彼女を見つけられまいと警告する。若者はただちに縁者を求めて出発した。コーンウォールのケリウィグの宮廷でアーサーを見つけ、支援を求める。
アーサーはこれに応じ、六人の戦士をキルッフに付けてオルウェンを探させた。一行は「世界で最も美しい城」に至り、イスバザデンの兄弟である羊飼いクステンニンに出会う。城はイスバザデンのものであり、この巨人がクステンニンから土地を奪い、残酷にも羊飼いの子二十三人を殺したことを知った。戦士カイは、二十四人目の子ゴレウを命に代えて守ると誓う。
クステンニンはキルッフとオルウェンの対面を取り持ち、乙女は一行をイスバザデンの城へ導くことに同意した。
イスバザデンは、娘が嫁げば自分は死ぬ定めであったため、四十ほどの不可能な難題を課す。一行はアーサーの助けを得てこれを果たし、最後に巨人は討たれ、キルッフはオルウェンを娶った。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アーサー・ジョーゼフ・ガスキン《王の子キルッフ》(1901年)である。
物語の構造が独特である。主人公は自ら難題を果たすのではなく、アーサーとその戦士たちに果たさせる。キルッフが行うのは、恋い焦がれることと、助けを求めることだけである。
課される難題の一覧そのものが、この物語の眼目でもある。四十ほどの課題は、それぞれが独立した小さな物語の種になっており、ウェールズの伝承のカタログとして機能している。物語の骨格が、伝承を並べるための器になっているわけである。
関わる伝承
アーサーの従弟という設定によって、この物語はアーサー王伝説の最古層に属することになる。ここに現れるアーサーは、後代のロマンスにおける宮廷の王ではなく、戦士団を率いる首領である。
『キルッフとオルウェン』には二百人を超える人名が列挙される箇所があり、失われたウェールズの伝承を知る手がかりとして重視されてきた。
文化的足跡
この物語は、現存するアーサー王物語のうち最も古いものの一つである。フランスのロマンスがアーサーを騎士道の王として描く以前の姿を伝えている点で、アーサー王伝説の研究において特別な位置を占める。
日本語圏では、『マビノギオン』の翻訳を通じてこの物語が読まれてきた。ただし主人公の名は「キルッフ」「キルフッフ」など表記が定まらない。ウェールズ語の ll と ch の音を日本語に写すことの難しさが、そのまま表記の揺れになっている。