テイルノン
テイルノン・トゥルヴ・スィアント · テイアノン · Teyrnon Twryf Liant
中世ウェールズ『マビノギ四枝』第一枝のグウェントの領主。牝馬の仔を奪う怪物の腕を斬り落とし、戸口に残された赤子プリデリを育てた。
解説
概要
テイルノン(Teyrnon Twrf Liant)は、中世ウェールズのマビノギオン所収『マビノギ四枝』第一枝に登場するグウェントの領主である。プリデリの育ての親にあたり、アーサー王物語の系統に属する『キルッフとオルウェン』にも宮廷の一員として名だけ現れる。
名はブリトン祖語の tigernonos(偉大な主)に遡ると広く認められている。リアンノンの名 Rīgantonā(偉大な女王)と、形の上で正確に対をなす。
神話・物語
アルベルスでプイスとリアンノンに男児が生まれた夜、六人の侍女がまどろむあいだに子は消えた。罰を恐れた侍女たちは母が我が子を食い殺したと偽証し、リアンノンは贖罪の務めを負う。
同じころ、テイルノンは自分の牝馬に悩まされていた。この馬は毎年五月前夜に仔を産むが、その仔が一頭も残らず消えるのである。彼は馬を家のなかへ入れて夜通し見張った。仔馬が生まれた瞬間、窓から巨大な爪の生えた腕が伸びて仔を掴もうとする。剣で打ち払うと腕は仔馬もろとも落ち、外で何かが叫んだ。追って出たが闇に何も見えず、戻ってみると戸口に襁褓にくるまれた男児が置かれていた。
夫妻はこの子を我が子として育てた。髪が黄金のように黄色いことから、グリ・ワルト・エウリン(黄金の髪のグリ)と名づける。子は常ならぬ速さで育ち、一歳で三歳ほどに、四歳で馬番と掛け合うほどになった。仔馬はそのまま彼に与えられている。
かつてプイスに仕えたことのあるテイルノンは、成長した子の顔にプイスの面影を認めた。妻と語らったすえ、義によってこれをダヴェドの王家へ返す。母のもとに戻った子はプリデリと名づけられた。プイスは生涯にわたってテイルノンとその領地を支えると申し出、多くの宝を贈ろうとしたが、彼はいずれも受けなかった。夫妻は喜びのうちにグウェントへ帰る。
図像と象徴
図像は伝わらず、当サイトも主画像を掲げない。
物語がこの人物に与える標識は、牝馬と仔馬、そして斬り落とされた腕である。子が消えるのと仔馬が消えるのが同じ夜に起こり、子が見つかるのと仔馬が救われるのも同じ夜であるという配置は、第一枝が終始、人の子と馬を重ねて語ることの一部をなす。怪物の正体は最後まで明かされない。第三枝でダヴェドを襲う災いの正体が突き止められるのとは対照的に、この腕の主は闇のなかに残される。
系譜と関係
妻の名は伝わらない。養い子はプリデリ、その実の父はプイスである。子は返還ののち、ペンダラン・ダヴェドのもとで養われた。
名の対応から、より古い形ではテイルノンがリアンノンの配偶者であり、両者が「偉大な主」と「偉大な女王」の対をなしていたとする説がある。ウィリアム・ジョン・グリフィズをはじめとする研究者が唱えてきた再構成で、第四枝の伝えとは別筋の想定である。子を奪われ取り戻す「神なる子」の型に照らせば、育ての親がその母と対の名を持つことには意味があるという見方だが、原典に両者を結ぶ記述はない。
文化的足跡
赤子と仔馬の取り替え、消える子ども、正体不明の腕といった要素は、ブリテン諸島の取り替え子伝承と重なる。第一枝でこれらが一夜に集められている点は民俗学者の関心を集めてきた。もっとも物語自身は妖精にも異界にも言及せず、事件を説明しないまま閉じる。説明しないことが、この挿話の効き目でもある。