馬の神
馬を司る神々のファセット。馬は多くの社会で、移動と戦争と富を同時に意味した。馬を握る神は、その三つを握る。印欧語族の諸体系にこのファセットが濃く分布するのは、馬の家畜化と彼らの拡散が結びついていたためだと考えられているが、これは仮説であって証明ではない。
ギリシアのポセイドーンには、海神の相の下に馬の層がある。パウサニアースが伝えるアルカディアの伝承では、牝馬に姿を変えて逃れようとしたデーメーテールを、牡馬となって犯し、駿馬アレイオーンを生ませた。メドゥーサとの交わりからは翼馬ペーガソスが生まれる。ヒッピオス(馬の)の添え名を持ち、競馬の守護でもあった。ローマのネプトゥーヌスにもネプトゥーヌス・エクエステルの相があるが、こちらは在来のものと言いきれず、地下の穀倉と競馬に関わる神コンススとの重なりが指摘される。ケルトのエポナは馬に跨がるか牝馬に囲まれて坐す女神で、ローマの騎兵に採用されてローマの暦に祭日を得た、数少ない属州出身の神である。ウェールズのリアンノンは白馬に乗って現れ、追う者がどれだけ速く駆けても追いつけない。アイルランドのマッハは、臨月の身で王の馬と競走させられ、勝った直後に決勝線上で双子を産み落とし、辱めた者たちに呪いを残した。英雄クー・フーリンの戦車を牽く二頭のうち一頭はリアフ・ワハ(マッハの灰色)と呼ばれる。走ることと産むことが同じ場面に重なる点で、この女神は土地と主権のファセットにも跨がる。ヴェーダのアシュヴィン双神は「馬を持つ者」の名を負う双子で、医療と救助を司る。
図像は分かりやすい。跨がる、牽かせる、あるいは馬そのものが伴う。エポナは常に馬と共にあり、馬なしでは同定できない。ポセイドーンは逆に、図像に馬が現れることは少なく、三叉戟が優先される。同じファセットに属しても、馬が標識になる神とならない神がある。
注意すべきは、馬の神と、神である馬とを混同しないことである。ペーガソスもスレイプニルもウッチャイヒシュラヴァスも馬であって、馬を司る神ではない。前者は乗物や産物であり、後者はその主である。また印欧語族の馬供犠(インドのアシュヴァメーダ、ローマの十月の馬、アイルランドの王の即位儀礼)の対応はデュメジル以来よく論じられるが、儀礼の細部は体系ごとに大きく違い、共通の祖形が復元できたわけではない。
この役割の神格
9柱を収載(知名度順)
ローマ神話
ネプトゥーヌス
Neptunus — 水神・海神
PLATE
ケルト神話
エポナ
Epona — 豊穣神
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ケルト神話
マッハ
Macha — 軍神
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CREATURE
ヒンドゥー神話
ウッチャイヒシュラヴァス
उच्चैःश्रवस् — 馬の神
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ケルト神話
リアンノン
Rhiannon — 馬の神
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ヒンドゥー神話
ナクラ
नकुल — 軍神
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ヒンドゥー神話
カルキ
कल्कि — 軍神
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ペルシア神話
ドルワースパー
𐬛𐬭𐬎𐬎𐬁𐬯𐬞𐬁 — 馬の神