プリデリ
プレデリ · グリ・ワルト・エウリン · Pryderi fab Pwyll
プイスとリアンノンの子。『マビノギ四枝』の四篇すべてに登場する唯一の人物で、ダヴェドの王。魔術師グウィディオンとの一騎打ちに敗れて死ぬ。
解説
概要
プリデリ(Pryderi fab Pwyll)は、中世ウェールズのマビノギオン所収『マビノギ四枝』に登場する人物である。ダヴェドの大公プイスとリアンノンの子で、父の死後にダヴェドを継いだ。四つの枝すべてに姿を見せる唯一の人物であり、その比重は枝ごとに大きく変わる。イヴォル・ウィリアムズは、彼こそが本来この物語全体の中心人物だったと推測したが、後の研究者には異論も多い。
大胆で進取に富む一方、無鉄砲が過ぎる——というのがジェフリー・ガンツの評であり、その最期は憐れではあるが、まったく理由のないものでもない。名は「心労」を意味する語 pryderi に由来する。母のもとへ帰った日、リアンノンが発した「これで私の心労は解けた」という言葉から採られた。
神話・物語
第一枝で語られるのは、その誕生と失踪である。生まれた夜に姿を消し、六人の侍女は罰を恐れて母が我が子を食い殺したと偽証した。子はグウェント・イス・コイドの領主テイルノンの家の戸口で見つかる。テイルノンの牝馬から仔馬を奪おうとした爪を剣で断ち払った、その直後のことであった。夫妻は黄金の髪にちなんでグリ・ワルト・エウリンと名づけて育てるが、成長したその顔立ちからプイスの子と知れ、ダヴェドの王家に返される。以後はペンダラン・ダヴェドのもとで養われた。父の死後、ダヴェドの七つのカントレヴを継ぎ、イストラド・タウィとケレディギオンを併せ、グウィン・ゴホイウの娘キグヴァを妻に迎える。
第二枝では、ブリテンの王ベンディゲイドヴランのアイルランド遠征に従う。妹ブランウェンの受けた仕打ちに端を発するこの戦は、死者を蘇らせる大釜をめぐって双方の壊滅に終わり、生還したのは七人だけであった。プリデリはその一人であり、瀕死の王の頭を携えてブリテンへ帰り、ロンドンの白い丘に埋めて国土を守る務めを果たす。
第三枝では、同じ生還者マナウィダンを迎え、寡婦の母との婚姻を取り持つ。四人がゴルセズ・アルベルスに坐すと、霧とともにダヴェドから人も家畜も消える。のちに白い猪を追った先の塔で、マナウィダンの制止を振り切って入り、黄金の鉢に触れて動けなくなり、母もろとも霧のなかに消えた。二人を解き放ったのはマナウィダンの粘り強い交渉である。
第四枝が最期を語る。アラウンから贈られた異界の豚を、グウィネズの魔術師グウィディオンが詐術で奪った。プリデリは軍を率いて北へ攻め上るが、マースに敗れて退き、ナント・カルとドル・ベンマインでさらに討たれた。これ以上の流血を避けるため一騎打ちで決することとなり、アルズイのイ・ヴェレン・リッドで、力と武勇と魔術に長けたグウィディオンに討たれて果てる。
図像と象徴
古い図像はなく、中世写本にも挿絵はない。主画像は、チャールズ・スクワイア『ケルト神話伝説』(1905年)にアーネスト・ウォールカズンズが描いた「グウィディオン、プリデリを討つ」で、ケルト復興期の造形にあたる。
物語のなかでこの人物に結びつく標識は、馬と豚である。生まれた夜、彼は仔馬と入れ替わるように消え、仔馬とともに見出される。育ての親テイルノンは馬の領主であり、名づけの由来となった母もまた馬と重ねて語られる。豚のほうは、ブリテンの三題詩が彼を「ブリテン島の三人の力ある豚飼い」の一人に数えることに現れる。養父ペンダラン・ダヴェドの豚をグリン・キーフで守ったという伝えで、彼を滅ぼしたのもまた豚であった。黄金の鉢に手が貼りつく第三枝の場面は、触れてはならぬものに触れる異界譚の型であり、四枝を通じて彼の行動を貫く軽率さの縮図でもある。
系譜と関係
父プイス、母リアンノン、育ての親テイルノンと養父ペンダラン・ダヴェド、妻キグヴァ。母の再婚により、マナウィダンが義父となる。
学説では、母のもとから奪われて取り戻される「神なる子」の型としてマボン・アプ・モドロンと重ねられることが多い。ガンツはまた、ペレドゥル・ヴァブ・エヴラウグ——大陸のペルスヴァル(パーシヴァル)に連なる人物——との比較を挙げる。『墓の詩節』は彼の墓所をアベル・グウェノリとし、『タリエシンの書』の「スリールの子らの前の歌」は、マナウィダンと並べて異界の城カエル・シジと結びつける。同書の「アンヌンの略奪」にもプイスとプリデリの名が見え、グウェイル・アプ・グウィスティルの幽閉に関わったと読める箇所があるが、鍵となる語の意味が定まらず、解釈は分かれている。
文化的足跡
四枝すべてに現れるという一点だけで、プリデリは『マビノギ四枝』の構成をめぐる議論の中心に置かれてきた。四篇は独立した物語なのか、それとも一人の生涯を軸にした一つの作品の分岐なのか——ウィリアムズ以来の問いは、この人物の扱いをどう見るかにかかっている。現代のマビノギ再話や翻案では、母リアンノンや義父マナウィダンほど前面に出ることは少ないが、四篇を貫く糸としての役割は変わらない。