プタハ
プター · フタ · プタハ・ソカル・オシリス
エジプト神話の造物神。メンフィスの主神で、心に思い舌に発することによって世界を存在させたとされる。工匠と建築家の守護神でもある。
解説
概要
プタハ(エジプト語 ptḥ、希 Φθά)は、下エジプトの古都メンフィスを本拠とする造物神である。ミイラのように白布に包まれた人の姿で表され、エジプトの神々のなかでは獣頭をとらない数少ない一柱にあたる。職人・建築家・金属工の守護神として崇められ、メンフィスの大神殿フウト・カア・プタハ(「プタハのカーの館」)の名は、ギリシア語のアイギュプトス、すなわち「エジプト」という国名そのものの語源となった。
神話・物語
プタハには、闘争や恋愛の筋書きをもつ物語がほとんどない。この神が語られるのは、もっぱら世界の始まりについてである。第25王朝のシャバカ王が古文書から写させたと称する玄武岩板、いわゆるシャバカ石に刻まれたメンフィス神学は、プタハが心で構想し舌で言葉を発することによって、神々とその力(カー)を、都市を、供物を、あらゆるものを存在させたと説く。ヘリオポリスの神学がアトゥムの体液や手から神々が生じたと語るのに対し、こちらは思考と言葉という抽象的な原理を創造の根拠に据える。
ただしシャバカ石の年代については議論が続いている。刻文が古王国の言語を模していることから原典を相当に古いと見る説と、第25王朝の作為とみなす説とが並び立ち、決着していない。いずれの立場をとるにせよ、この文書がメンフィスの神学的優位を主張する意図をもつことは疑いない。創世神話の複数性は、そのまま都市間の主張の複数性でもある。
図像と象徴
プタハは、体に密着した白い包帯状の衣に覆われ、両手だけを胸の前に出して立つ姿に表される。頭は剃り上げられ、青い縁なし帽をかぶり、顎には神々の付け髭を垂らす。肌はしばしば緑に塗られ、芽吹く植物と再生を示唆する。
両手が握る一本の杖には、三つの標章が縦に重ねられている。上からウアス杖(支配)、アンク(生命)、ジェド柱(安定)であり、この三点を一本にまとめた持物はプタハに固有のものである。トリノのエジプト博物館が蔵するアメンヘテプ3世時代の閃緑岩像は、この定型を完成した形で示す代表作といえる。
メンフィスの神域の外壁には、無数の耳が浮彫りされていた。「祈りを聞くプタハ」という称号のとおり、民衆が仲介者を介さず直接に願いを届ける神であったことを、この意匠は伝えている。王家の谷で働いた職人の村デイル・エル・メディーナにも、同じ性格の礼拝所が置かれた。末期王朝以降には、裸で足の短い矮人の姿の護符が大量につくられ、プタハの名で呼ばれてフェニキア人の交易とともに地中海世界へ広まった。
系譜と関係
メンフィスでは獅子頭の女神セクメトを妻とし、蓮から生まれた子ネフェルトゥムと合わせて三柱一組の神群をなす。ジェセル王の宰相で後に神格化されたイムホテプも、その子と称された。古くからメンフィス地方の葬祭神ソカルや大地神タチェネンを取り込み、さらにオシリスと結んでプタハ・ソカル・オシリスという複合神を生んでいる。この形の木製小像は、末期王朝の墓に大量に副葬された。聖牛アピスはプタハの化身とされ、死後はサッカラのセラペウムに手厚く葬られている。
文化的足跡
道具で像や遺体の口に触れ、呼吸と飲食の力を与える開口の儀式は、工匠の守護神たるプタハの管轄下にあった。用いる手斧が職人の道具に由来するためである。ヘロドトス『歴史』第2巻は、メンフィスのプタハ神殿をヘーパイストスの神殿と呼んでいる。技術の神どうしを重ねたこの同一視は、以後の古典文献に踏襲された。近代ではヴェルディの歌劇『アイーダ』が「フタ」の名で合唱に呼び出し、現代の創作作品にも造物神として登場する例がある。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。