イムホテプ
Imhotep
実在した古代エジプトの宰相・建築家で、階段ピラミッドを設計した人物。死後およそ二千年を経て医術と知恵の神へと神格化された、稀有な存在である。
解説
概要
イムホテプ(ỉỉ-m-ḥtp / Imhotep)は、実在した歴史上の人物でありながら、のちに神へと祀り上げられた稀有な存在である。前27世紀、第3王朝の王ジェセルに仕えた宰相・大神官・建築家であり、サッカラの階段ピラミッドを設計した人物とされる。その死から長い時を経て医術と知恵の神として崇拝されるにいたった。王族の出でない者が神格化された、エジプトでもごく数少ない例のひとつである。名は「平安のうちに来たる者」を意味する。
生涯と神格化
歴史上のイムホテプは、ジェセル王のもとで宰相を務め、ヘリオポリスの太陽神ラーの大神官でもあった。その名は王ジェセルの座像の台座に刻まれており、平民の身でこうした栄誉に与ったことが、彼の並外れた地位を物語る。最大の功績とされるのが、サッカラに築かれた階段ピラミッドである。方形の墓(マスタバ)を積み重ねる着想によって、それは世界最古の大規模な切石建築となり、のちのピラミッド時代の扉を開いた。
死後、イムホテプの名声は数百年、やがて二千年の時をかけて高まっていった。賢者・医の祖として敬われ、前525年のペルシア征服の頃には完全な神へと引き上げられて、アポテオーシスを遂げる。医術の神として、また創造神プタハの子として崇められ、メンフィス・サッカラ・フィラエの神殿には病者が集い、夢のなかで神が癒しを告げてくれることを願って眠ったと伝えられる。
図像と象徴
神となったイムホテプは、多くの場合、坐して膝の上に開いた巻物を広げる書記の姿で表される。剃り上げた頭に簡素な腰布をまとうその像は、宇宙を統べる神々とは異なり、学識ある賢者そのものの姿である。末期王朝には精巧な青銅像が数多く作られ、その巻物を繙く静かな坐像は、知と医の守り手としての性格をよく伝えている。
系譜と関係
神格化されたのちのイムホテプは、創造神プタハを父とし、母を戦の女神セクメトとする伝えもある。歴史上の父は建築家カノフェル、母はケレドゥアンクとされる。知と書記を司る神トートとしばしば結びつけられ、その領分は重なり合う。ギリシア人は、同じく人間から神となった医神アスクレーピオスと彼を同一視した。
文化的足跡
イムホテプは、名の伝わる史上最初の建築家・医師・万能の知識人としてしばしば語られ、その階段ピラミッドはピラミッド建設の時代を切り開いた。もっとも、現代の映画などでは復活する怨霊の悪役として描かれることもあり、これは本来の慈悲深い医神の姿とはかけ離れた創作である。FGO・女神転生など現代の作品にも登場する。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。