アマルテイア
アマルテア · アマルテイアー · Amalthea
幼いゼウスの乳母。山羊の乳で育てるニュンペーとも、山羊そのものともされる。その角がコルヌコピア(豊穣の角)の起源とされる。
解説
概要
アマルテイア(Ἀμάλθεια)は、幼いゼウスの乳母として最もよく知られるギリシア神話の存在である。
山羊の乳で幼子を育てるニュンペーとされる一方、ヘレニズム期(前323〜前30年頃)以降の一部の記述では、山羊そのものとされる。
前6世紀という早い時期から「アマルテイアの角」——ラテン語ではコルヌコピア(豊穣の角)——への言及が残る。望むだけの食物と飲物を限りなく生み出す魔法の角である。
神話・物語
前4世紀頃、伝説上の詩人ムーサイオスに帰される物語では、ニュンペーのアマルテイアが幼いゼウスを養い、恐ろしい姿の山羊を飼っている。成人したゼウスは、ティーターン神族との戦いにおいて、この山羊の皮を武器として用いた。
アマルテイアを山羊そのものとして記した最初の著述家は、前3世紀の詩人カッリマコスである。神話を合理化した版であり、ゼウスはアマルテイアの乳で養われたことになる。同じ前3世紀のアラートスは、アマルテイアを星カペラと同定し、「オーレニアの」と形容した。この語の意味は分かっていない。
ゼウスの養育の話と魔法の角の話が、いつ結び合わされたのかについては研究者の見解が分かれる。両者を明確に結合したのはローマの詩人オウィディウス(前1世紀/後1世紀)であり、その養育譚は複数の記述の要素を織り合わせている。アラートス版の写本の傍注が、オウィディウス以前に両者が結びついていた証拠だと解されることもある。
後2世紀の神話便覧『ファブラエ』では、アマルテイアは幼子を木に隠し、クーレーテスたちを集めて騒がしく踊らせる。子の泣き声が聞こえないようにするためである。ゼウスの養育を語る他の伝えでは、アマルテイアはクレータの伝説上の王メリッセウスと関係づけられ、オルペウス教の版もこれに含まれる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ヤーコプ・ヨルダーンス《ゼウスの幼年時代》(1640年頃)である。
古代美術における作例は少ない。前1世紀から後1世紀の浮彫に、二人のクーレーテスのあいだでゼウスに乳を与える姿が残り、ローマ帝国期の貨幣とメダルにも図像がある。
16世紀から18世紀にかけて、この主題は繰り返し描かれた。ジョルジョ・ヴァザーリ、ヨルダーンスといった画家、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ、ピエール・ジュリアンといった彫刻家の作品が知られる。
語源は不明である。19世紀の研究者はいくつもの仮説を提出した。アルトー、アルタイノー(ἄλθω, ἀλθαίνω、「養う、育てる」)に由来するとする説、アマレー・テイア(ἀμαλὴ θεία、「神なる山羊」)とする説などである。
関わる神格・伝承
養った相手はゼウス。クーレーテスたち、そしてクレータ王メリッセウスと関わる。
角がコルヌコピアの起源とされることから、ローマのアブンダンティアやフォルトゥーナの持物とも接続する。もっとも豊穣の角の起源譚は複数あり、河神アケローオスの角がヘーラクレースにもぎ取られてこれになったとする伝えもある。
ニュンペーか山羊かという揺れは、この存在の性格をよく示している。乳を与える者と、乳の出どころ。両者を同じ名で呼ぶうちに、区別が失われていった。
文化的足跡
木星の内側の衛星アマルテアは、1892年にエドワード・エマーソン・バーナードが発見し、この名を与えられた。ゼウス(ユーピテル)を養った者の名が、その惑星のすぐ内側を回る小さな衛星に与えられている。
コルヌコピアの意匠は、近代の紋章や貨幣に広く用いられ続けた。豊かさを表す図案として、今日でも収穫祭の飾りに現れる。角の出どころが山羊であることは、多くの場合忘れられている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。