シャリヤ
マドラーディパ · マドラージャ · アールターヤニ
マドラ国の王で、ナクラとサハデーヴァの母方の伯父。もてなしの返礼に縛られてカウラヴァ側につき、カルナの御者を務めた。
解説
概要
シャリヤ(Śalya / शल्य)は『マハーバーラタ』の登場人物で、インド亜大陸北西部のマドラ国を治めた王である。妹マードリーがクル王パーンドゥの妃となったため、ナクラとサハデーヴァの母方の伯父にあたる。武勇と知略で知られ、とりわけ御者としての技量に定評があった。パーンダヴァの縁者でありながらカウラヴァ側に立って戦い、カルナの御者を務め、その死後は最後の総大将となる。マドラ王を意味するマドラーディパ、マドラージャなどの呼称でも呼ばれる。
神話・物語
彼の立場を決めたのは、一夜のもてなしである。開戦にあたって甥たちの側につくつもりで軍を進めていたところ、道々で豪奢な歓待を受けた。パーンダヴァの計らいと思い込んで主人を称えたところ、現れたのはドゥルヨーダナであった。王としての礼に従えば返礼を約さねばならず、そこを捉えられて自軍とともにカウラヴァ側に立つことを求められる。言葉に縛られた彼は、意に反してこれを承諾した。もてなしが人を縛るという構図は、叙事詩が繰り返し用いる主題である。
陣営を違えながら、彼はパーンダヴァの勝利を願い続けた。開戦前、長老たちに祝福を求めて訪れたユディシュティラに、彼は快く勝利を祈っている。そのときユディシュティラは、カルナの御者となった際にパーンダヴァ側を褒めそやして彼を苛立たせてほしいと頼んだ。
戦では初日にユディシュティラと打ち合い、ヴィラータ王の子ウッタラを討ち、ドリシュタデュムナと交え、ビーマに敗れるなど、各所で戦っている。ジャヤドラタをアルジュナの攻撃から守ったのも彼である。
そして十七日目、ドゥルヨーダナの強い求めによってカルナの御者を務めることになった。王でありながら御者の座に就くという屈辱を、彼は引き受けた。そのうえで、道中ひたすらアルジュナの武勇を語り、カルナの気力を削いだと語られる。カルナが討たれたのち、彼は最後の総大将となる。十八日目、ユディシュティラの投じた槍を受けて倒れた。長兄が自らの手で討った、ほとんど唯一の敵将である。
図像と象徴
固有の像容は伝わっていない。象徴となるのは手綱である。武器を執る王としてではなく、他人の戦車を御する者として記憶されている点に、この人物の特異さがある。マドラ国の御者術は当時よく知られており、彼の技量はカルナ自身も認めるところであった。
系譜と関係
妹マードリーがパーンドゥの第二妃となり、ナクラとサハデーヴァを産んだ。したがって両者の母方の伯父にあたる。息子にルクマーンガダとルクマラタがあり、娘ヴィジャヤーはサハデーヴァに嫁いだ。ドラウパディーの婿選びの場にも息子たちを伴って参加している。血縁としてはパーンダヴァに最も近い側にありながら、義理によって敵陣に立った人物である。
文化的足跡
彼をめぐる挿話のうち最も広く知られるのは、御者としての段である。近現代の再話では、恩義に縛られて心ならずも敵側に立つ人物の典型として扱われることが多い。もっとも原典は彼を単純な同情の対象とはしておらず、カルナを内側から挫くという役割を進んで引き受けた者としても描いている。『マハーバーラタ』第九巻はその名を冠してシャリヤ・パルヴァンと呼ばれ、彼の総大将としての最期と、ビーマとドゥルヨーダナの棍棒の一騎討ちを収めている。