ルーナ
ルナ · セレーネー(ギリシア)
ローマ神話で月そのものを神格化した女神。二頭立ての車で夜空を渡り、四頭立ての太陽神ソールと対をなす。ギリシアのセレーネーにあたる。
解説
概要
ルーナ(Lūna)は、ローマ神話で月そのものを神格化した女神である。ウァッローは、ネプトゥーヌスのような目に見えない神に対して、ソールとルーナを「目に見える神」に分類し、また農事に不可欠な十二柱にも数えた。ギリシアのセレーネーにあたり、その物語はラテン語作家によってルーナの名で語り直された。ただしルーナは常に独立した女神であったわけではなく、ディアーナやユーノーを月の相で語るときの添え名でもあった。
神話・物語
固有の神話は乏しい。エンデュミオーンへの愛——眠り続ける美しい青年のもとへ夜ごと降りる話——はギリシア由来で、ローマの壁画がとりわけ好んだ主題である。
祭祀のほうは古い。サビニ人の王ティトゥス・タティウスがローマに持ち込んだとされ、セルウィウス・トゥッリウス王がアウェンティヌスの丘に神殿を建てたと伝えられる。記念日は3月31日であった。前182年、猛烈な暴風がこの神殿の扉を吹き飛ばし、斜面の下にあったケレースの神殿に叩きつけたという記録が残る。前84年には落雷を受け、それが将軍キンナの殺された日と重なったことが凶兆として語られた。パラティヌスの丘には「夜に輝くもの(ノクティルーカ)」の名で呼ばれる別の社があったが、ウァッローの短い言及以外に手がかりはない。
図像と象徴
標識は、頭上あるいは肩の後ろに弧を描く三日月である。多くは二頭立ての車(ビガ)に乗り、四頭立て(クアドリガ)のソールと対をなす。セビーリャのイシドールスは、太陽の四頭立ては四季の巡りを、月の二頭立ては昼と夜の両方に現れることを表すと説き、片方に黒い馬、片方に白い馬を繋ぐと記した。理屈が後から付いた説明ではあるが、二頭と四頭の対比が古代の側でも意識されていたことは分かる。
ソールとルーナを画面の左右上方に並べる型は、帝政期の浮彫に広く行き渡っている。ミトラス教の牡牛屠りの図では、ほぼ例外なく両者が上隅に現れ、場面を天の枠組みのなかに置く働きをした。カプア・ウェテレのミトラエウムには、ルーナだけを主題とした珍しい壁画が残り、車を引く二頭の馬が一頭は明るく、一頭は暗く描き分けられている。
ジュネーヴ美術歴史博物館が蔵する2世紀の大理石像は、ローマ市内の家屋の基礎から出土したもので、衣を頭上に大きく弧を描かせている。月の形そのものを身にまとった姿である。
系譜と関係
兄はソール、姉妹に曙のアウローラがある。ギリシアでヒュペリーオーンとテイアーの子とされる系譜が、そのまま受け継がれた。
後期には、三つの相を持つ一柱の女神という観念が現れる。注釈家セルウィウスは、天ではルーナ、地上ではディアーナ、地下ではプロセルピナと呼ばれるとし、ヘカテーをこの三相に重ねる説も並んだ。役割の近い女神を一つに束ねる、帝政後期の神学的な整理の産物である。共和政期のルーナが最初からそう理解されていたわけではない。
文化的足跡
ラテン語の lūna は、フランス語 lune、イタリア語・スペイン語 luna として、ロマンス諸語の「月」にそのまま残った。英語の lunar(月の)、lunatic(狂気の)も同じ語による。後者には、月の満ち欠けが人の精神を左右するという古い観念が化石のように残っている。月曜(dies Lunae)の名も、この女神の名を継いだものである。