ティウル
ティウ · tivs · tiur
エトルリアの月の神格。同じ語が「月」と「ひと月」の両方を指し、ピアチェンツァの肝臓で天空をウシルと二分した。
解説
概要
ティウル(エトルリア語 tiur、ティウとも)は、エトルリア神話で月を司る神格である。ただし tiur はエトルリア語で天体としての月を指す普通名詞であり、同時に暦の上の「ひと月」をも意味した。神名と普通名詞の境目がはっきりしないという、エトルリアの神々にしばしば見られる事情がここにも当てはまる。
神話・物語
物語は伝わらない。この神格について確かめられることは、ほぼ一点の器物に集約される。
ピアチェンツァの肝臓の凸面には、太陽神ウシルの名と並んでティウルの名が刻まれている。この二つの名が、外縁の十六の天区を「ウシルの側(usils)」と「ティウの側(tivs)」に二分している。天空を太陽と月の領分に割るという発想が、占いの手引きの構造そのものになっていたことになる。
祭儀暦と見られる亜麻布の書やタブラ・カプアーナに、この名で祭が記されているかどうかも判然としない。神殿も祭日も奉献品も知られていない。
図像と象徴
ティウルの名を伴う図像は知られていない。本項に主画像を掲げていないのは、この事情による。
エトルリア美術に月そのものが現れないわけではない。二頭立ての車に乗る神格の図像は、ローマのルーナやギリシアのセレーネーと共通する型であり、カタをこれに当てる説もある。ただしそれらの図に tiur の銘はなく、月の神格を名で特定することはできていない。
エトルリアの美術がそもそも天体を神の姿で描く習慣を持たなかったこと——ウシルの図像もギリシア美術の影響下で現れる——を考えれば、月の神格が造形されなかった可能性も十分にある。
系譜と関係
系譜は伝わらない。関係は、天空の区画のなかでウシルと対をなすという一点に尽きる。カタを月の神格と見る立場に立てば、ティウルとカタの関係が問題になるが、いずれの名も確たる図像を持たないため、比較する材料がない。
ローマのルーナ、ギリシアのセレーネーとは、機能の上で対応する。ただしそれらが物語と祭祀を備えた女神であるのに対し、ティウルは名だけが残った神格である。
文化的足跡
エトルリア語の tiur は、この言語がほとんど解読されていないなかで意味の判明した数少ない語の一つである。月と暦の月を同じ語で表すことは印欧語族に広く見られる(ラテン語の mensis、英語の month と moon)が、エトルリア語は印欧語族に属さない。異なる語族が同じ結びつきに至ったことになり、暦をめぐる言語の類型を考える材料として引かれることがある。