ヒラニヤークシャ
ダイティヤ族 · カシュヤパとディティの子 · 前世ジャヤ
大地を海底へ沈めたとされるアスラの王。ヴィシュヌの猪身化身ヴァラーハと千年にわたって戦い、討たれたと語られる。
解説
概要
ヒラニヤークシャ(Hiraṇyākṣa / हिरण्याक्ष)は、インド神話に登場するアスラである。名は「金の目をもつ者」を意味する。聖仙カシュヤパとディティの子で、ディティの子を意味するダイティヤ族に属する。大地を海底へ沈め、これを引き上げようとするヴィシュヌの猪身化身ヴァラーハと千年にわたって戦い、討たれた。兄弟ヒラニヤカシプは、この死の報復として苦行に入る。
神話・物語
『バーガヴァタ・プラーナ』が伝えるところでは、彼は力を得て三界を席巻し、ついには大地そのものを原初の海の底へ沈めた。ヴィシュヌは猪の姿をとって水中へ降り、千年に及ぶ戦いの末に彼を討って、牙のあいだに大地を挟んで引き上げた。大地を沈めたのが彼の仕業であるとする伝えと、沈んだ大地を彼が守っていたとする伝えがある。
前世をめぐる説話が、この兄弟には共通して添えられる。ヴィシュヌの住むヴァイクンタの門番ジャヤとヴィジャヤが、訪れた四人の聖者を通さなかったために、アスラとして生まれる呪いを受けた。ヴィシュヌにも呪いは解けず、代わりに二つの道が示される。信者として十度生まれ変わるか、強大な敵として三度生まれ変わるか。二人は主の傍らを早く離れたくないとして後者を選んだ。ジャヤはヒラニヤークシャ、クンバカルナ、ダンタヴァクラとして、ヴィジャヤはヒラニヤカシプ、ラーヴァナ、シシュパーラとして生まれたという。敵対者が実は最も近い者であるという構図は、ヴィシュヌ派の思想において重要な主題をなす。
図像と象徴
固有の像容はほとんど伝わっていない。図像に現れるのは、ヴァラーハと戦う場面か、その足下に倒れる姿である。象徴となるのは沈められた大地であり、彼の行為が第三化身の出現を必要とさせた。
系譜と関係
父は聖仙カシュヤパ、母はディティ。兄弟にヒラニヤカシプ、妹にホーリカー。子にターラカ、ナラカ、シャンバラらがあり、ターラカはスカンダに討たれ、ナラカはアディティの耳飾りを盗んだ者として知られる。苦行によってシヴァから授かった子アンダカを養ったとも伝えられる。
文化的足跡
彼の物語は単独で語られることが少なく、ヴァラーハの化身譚の一部として伝わるのが通例である。もっとも、大地を沈める者と引き上げる者という対の構図は、劫の切り替わりにおける帰滅と再生を人格の形で示したものとして読まれてきた。ジャヤとヴィジャヤの前世譚は、ヴィシュヌ派の三つの主要な敵対者——ヒラニヤークシャとヒラニヤカシプ、クンバカルナとラーヴァナ、ダンタヴァクラとシシュパーラ——を一つの系譜に束ねる仕掛けとして機能している。