ターラカ
ターラカースラ · タラカースラ · ターラカ
シヴァの子にのみ討たれうるという恩寵を得て三界を制した強大なアスラ。この恩寵ゆえにシヴァとパールヴァティーの婚姻が必要となり、生まれたカールッティケーヤに討たれた。
解説
概要
ターラカ(サンスクリット तारकासुर、ターラカースラ)は、ヒンドゥー教の強大なアスラである。
アスラのヴァジュラーンガと妻ヴァジュラーンギーの子。三人の子ターラカークシャ、ヴィデュンマーリー、カマラークシャがおり、この三人はトリプラースラと呼ばれる。
カールッティケーヤ(スカンダ)に討たれた。
神話・物語
出生から語られる。ディティは姉アディティを妬み、夫カシュヤパに、アディティの子である神々を破りうる子を求めた。カシュヤパはこれを容れ、金剛の四肢を持つ子ヴァジュラーンガを与える。ヴァジュラーンガは母の命じるままにインドラと神々を捕らえて罰した。
アディティが抗議すると、ブラフマーはヴァジュラーンガに捕虜の解放を促した。ヴァジュラーンガはこれに応じ、自分は母の指示に従ったにすぎないと述べる。これに満足したブラフマーは、彼のために妻ヴァジュラーンギーを創った。恩寵を問われた彼女は、三界を制しヴィシュヌを苦しめる子を求める。困惑したヴァジュラーンガは、善き子を得るためブラフマーに苦行を捧げた。こうして生まれたのがターラカースラである。
ターラカはブラフマーに苦行を捧げ、二つの恩寵を求めた。三界に自分と並ぶ者がないこと、そしてシヴァの子にのみ討たれうること、である。第二の願いは狡猾と評される。シヴァはヨーギンであり、子をもうけそうになかったからである。
願いを容れられたターラカはただちにスヴァルガを席巻し、父と同じく神々を追い出して、自らを新しいインドラと宣した。
インドラはブラフマーに助力を求める。ブラフマーは、シヴァが深い苦行に入っておりヒマヴァットの娘パールヴァティーに目を留めそうにない以上、自分にできることは少ないと説いた。そこでインドラはカーマデーヴァとラティと謀を巡らす。カーマデーヴァがシヴァに花の矢を放つと、シヴァはパールヴァティーへの強い惹かれを覚えたが、企みを見抜いて第三の眼でカーマデーヴァを灰にした。
パールヴァティーは厳しい苦行によってついにシヴァの愛を得て婚姻し、カールッティケーヤを産む。この子がターラカを討ち、宇宙の秩序が回復された。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。造形されるのは、この魔族を討つカールッティケーヤの側である。
物語の構造に注目したい。ターラカが求めた「シヴァの子にのみ討たれうる」という恩寵は、自分を守るための条件でありながら、結果としてシヴァに子をもうけさせる原因になった。守りの条件が、そのまま滅びへの道筋を作っている。
インドの神話において、恩寵はしばしばこの形をとる。願いは正確に叶えられ、そしてその正確さゆえに破られる。
関わる神格・伝承
父はヴァジュラーンガ、母はヴァジュラーンギー。子はトリプラースラの三人。討ち手はカールッティケーヤ。
ダイティヤの系譜に連なる。ディティの求めに発する一族が、繰り返し神々と争うという構図である。カーマデーヴァの焼死、パールヴァティーの苦行、スカンダの誕生——シヴァ神話の中核をなす一連の出来事が、すべてこの魔族の存在を前提としている。
文化的足跡
日本語圏では、スカンダ誕生譚の文脈で「魔族ターラカ」として言及される。討たれる側でありながら、この魔族なしにはシヴァとパールヴァティーの婚姻もスカンダの誕生も起こらない。
物語を動かすのが敵役の願いであるという点で、この人物はインド神話における恩寵の論理を最もよく示す例といえる。