シシュパーラ
シシュパーラ王 · Shishupala · Śiśupāla
チェーディ国の王子。生まれつき三つの眼と四本の腕を持ち、クリシュナに触れられて異形が消えた。「百までは赦す」という約束のもと悪行を重ね、罵倒が百を超えて討たれた。
解説
概要
シシュパーラ(梵 शिशुपाल Śiśupāla)は、インド神話の人物である。チェーディ国の王ダマゴーシャと、ヴァスデーヴァの妹シュルタデーヴァーの子にあたる。
強大なマガダ国王ジャラーサンダの協力者であり、ヴィダルバ国王ビーシュマカの娘ルクミニーと婚約していたが、婚礼の当日にクリシュナに略奪された。のちクリシュナに殺される。
神話・物語
『マハーバーラタ』によれば、シシュパーラは生まれたとき三つの眼と四本の腕を持っていた。両親は不気味な赤子を見て捨てようとする。すると姿なき声が告げた——この子は将来強大な王になる、まだ死ぬときではない、しかし彼を殺す者はすでに生まれている、その者が子を膝に置いたとき余分な腕が落ち、子がその者を見たとき第三の眼が消えるであろう、と。
噂を聞いた諸国のクシャトリヤが訪れて膝に置いてみたが、何も起こらない。あるときクリシュナが叔母にあたるシュルタデーヴァーを訪ねた。妃が喜んで子をその膝に置くと、余分な腕が落ち、第三の眼が消えた。驚いた妃は、この子がどんな罪を犯しても赦してほしいと懇願する。クリシュナは百までなら我慢すると約束した。
成長したシシュパーラは、この約束をいいことに悪行を重ねる。ドヴァーラカーの市を灰にし、ボージャの王たちを殺し、あるいは捕らえた。バブルの妻やヴィシャーラーの王女バドラーを奪った。クリシュナはこれを我慢し続けた。
のちユディシュティラがラージャスーヤの祭祀を行って即位したとき、ビーシュマの助言に従って最初の敬意をクリシュナに捧げた。シシュパーラはこれに激しく抗議し、クリシュナを罵倒する。罵りが百を超えたとき、クリシュナはチャクラを投げてその首を刎ねた。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
数を数えるという構造が、この物語の要である。百までは赦すという約束が、罵倒の回数として厳密に履行される。赦しに上限が設けられ、その上限に達した瞬間に処刑が執行される。
生まれたときの異形——三つの眼と四本の腕——が、自らを殺す者に触れられて消えるという設定も特異である。死をもたらす者との最初の接触が、まず異形を取り去る。
関わる神格・伝承
父はダマゴーシャ、母はシュルタデーヴァー。婚約者はルクミニー、その兄がルクミンである。討ち手はクリシュナ。
前世においてはヴィシュヌの門番ジャヤとヴィジャヤの生まれ変わりとされ、ヒラニヤカシプ、ヒラニヤークシャ、ラーヴァナらと同じ系列に置かれる。三度敵として生まれ、三度ヴィシュヌに討たれることで解脱に至るという枠組みである。
文化的足跡
7世紀の詩人マーガは、この人物の死を主題に叙事詩『シシュパーラ・ヴァダ』(シシュパーラの殺戮)を書いた。サンスクリット文学の六大宮廷叙事詩(マハーカーヴィヤ)の一つに数えられる。
日本語圏では、クリシュナがルクミニーを略奪した相手として言及される程度である。しかし「百までは赦す」という約束の物語は、インドにおける忍耐と処罰の観念を示す挿話として繰り返し語られてきた。