クリュメネー
クリュメネ · Klymene
オーケアノスとテーテュースの娘であるオーケアニス。ティーターンのイーアペトスの妻となり、アトラースやプロメーテウスら四兄弟を生んだ。
解説
概要
クリュメネー(Κλυμένη / Clymene)は、オーケアノスとテーテュースの娘、すなわちオーケアニスの一人である。名は「名高い女」を意味する。ティーターンのイーアペトスの妻となり、アトラース・プロメーテウス・エピメーテウス・メノイティオスの四兄弟を生んだ。人類の祖と語られた一族の母であるにもかかわらず、自身についての物語はほとんど伝わらない。
神話・物語
ヘーシオドス『神統記』とヒュギーヌスがイーアペトスの妻をクリュメネーとするのに対し、アポロドーロスは同じ役を姉妹のアシアーに与えている。オーケアニデスは三千人と数えられ、その多くは名だけの存在であるから、同じ位置に別の名が入れ替わることは珍しくない。異伝はさらに広がり、プロメーテウスの妻をクリュメネーとする説、プロメーテウスとのあいだにデウカリオーンを生んだとする説、ゼウスとのあいだにムネーモシュネーを生んだとする説も伝わる。母の位置と妻の位置が資料によって入れ替わるのは、系譜が一つの権威に統制されていなかったことの現れである。
同名の存在が多い点にも注意がいる。とくに紛らわしいのが、アイティオピアー王メロプスの妻となり、ヘーリオスとのあいだにパエトーンとヘーリアデスを生んだクリュメネーである。太陽の車を御しそこねて墜落した息子を探して世界を放浪する母として、オウィディウス『変身物語』以来くり返し絵画の主題となった。この女神もまたオーケアノスの娘とされるため、イーアペトスの妻と同一人物とみる資料もあるが、両者を区別する扱いが一般的である。近世以降の版画に「クリュメネー」として描かれるのは、ほぼ例外なくパエトーンの母のほうである。このほか、ネーレーイスの一人、オルコメノス王ミニュアースの娘、クレータ王カトレウスの娘、ヘレネーの侍女など、同名の人物が複数知られる。
図像と象徴
イーアペトスの妻としてのクリュメネーを名指した古代の作例は知られていない。近世のオウィディウス挿絵に現れるクリュメネーは前述のとおりパエトーンの母であり、これを本項の主画像に用いれば別人の像を当てることになる。したがって本項では主画像を置いていない。図像を欠くことは、この女神が系譜のうえでのみ必要とされた存在だったことと対応している。
系譜と関係
父オーケアノス、母テーテュース。夫イーアペトス(アポロドーロスはアシアーを妻とする)。子はアトラース、プロメーテウス、エピメーテウス、メノイティオス。オーケアニデスのなかでは、ドーリスやステュクスと同様に、他の系譜の起点となる女神の一人にあたる。
文化的足跡
小惑星帯の104番小惑星クリュメネーにその名が与えられている。木星のトロヤ群小惑星クリュメネーもあるが、こちらはカトレウスの娘、ナウプリオスの妻にちなむ命名である。同名の多さが、天体の命名にもそのまま持ち込まれている。